鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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名探偵コナツ 第5話   江戸川乱歩類別トリック集成⑤

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 土曜日、小乃子が調理部の友人にお誘いを受けて、それに同行する形で私も調理部の活動に参加することになった。
 待ち合わせの時間は午後三時だったが、学校に早く来すぎてしまった私と小乃子は午後二時の時点で調理室を訪れた。
 ドアを開くと、人が倒れていた。その顔には見覚えがあった。調理部部長の音霧桐子だ。 私は駆け寄った。意識はないが命に別状はなさそうだ。
 音霧部長がうっすらと目を開けた。
「音霧部長。何があったの?」
「……わからない。私――」
 また意識を失ったと思ったら、音霧部長はいびきをかいて寝ていた。よほど寝不足だったのだろう。足下には脚立があり、蛍光灯が置かれていた。蛍光灯を代えている途中だったようだ。これは事故かあるいは事件か。現段階ではまだわからない。
 校舎内にいる生徒や教師に聞いて回ると、音霧部長は午後一時に二階の廊下で目撃されていた。
 倒れている彼女を発見したのは午後二時だ。
 事故あるいは事件は、午後一時から二時の間に起こったと推測できた。
 噂によると、音霧部長は調理部の部員全員から嫌われているらしい。理由は諸説あるが、とにかく嫌われているそうだ。
 聞き込みを終えて再び部室に戻ってきたときには、午後三時になっていた。その頃には音霧部長の弟、一年生の音霧猛が来ていた。背格好も顔立ちも音霧部長によく似ていた。 部員も八人全員集まっていた。
 午後一時から二時の間にアリバイのある者はたった一人。それ以外の部員にアリバイはなかった。
 残り七人から犯人を絞り込む?
 まさか!
 アリバイのある一人を調べろ、と私の直感が告げていた。
 その人物は、小日向舞。音霧部長と同じ三年生だ。
「小日向さん。なんでこんなことしたの?」
 私は決めつけた。
「ちょっと待ってよ。私にはアリバイがあるわ」
「ついさっき共犯者が白状したよ」
 私が告げると、小日向はとっさに音霧猛を見た。猛は固まった。そして小日向は、あ、という顔になった。そう、ブラフだ。私は小日向舞を引っかけたのだ。
「思った通りね。弟の猛君が変装して音霧部長のふりをして、廊下を歩くことでわざと目撃された。それでその間に小日向さんはアリバイを作っておいた。実際に事件が起こったのは午後一時前だった。小日向さん、午後一時以前にアリバイないでしょ?」
 私が断言すると、小日向舞は観念して事情を告げた。
「わたし……そんなつもりじゃなかった。桐子の奴、ドアを開けたら勝手にびっくりして脚立から落ちて頭を打ってそのまま動かなくなった。それで恐くなって猛君にわたしのアリバイを作ってもらったの。最初はその時間別の場所で一緒にいたってことにしようと思ったんだけど、わたしたち付き合ってるから信憑性がないかと思って、桐子に変装してもらったの。わたしと猛君が付き合ってることを知って、最近すごくきつく当たってきてて、そのことをみんな知ってるから変な風に疑われるんじゃないかってそれが恐くて……」
 部員たちは小日向の話を信じていないようだ。皆、音霧部長を嫌っていた。そのため事故で片づけるより、暴力沙汰があったと考える方がしっくりくるようだ。
 音霧部長が目覚めた。
「……わたし、ドアが突然開いてびっくりして……脚立から落ちて」
 音霧部長はうわごとのように言った。
 あ、ホントだったんだ、とみんな小日向の話を信じた。
 気絶した音霧部長を放置したことで教師は小日向を咎めたものの、後は比較的穏便にことは済んだ。
 それより驚きなのは寝ている音霧部長を見て誰も保健室に運ぼうと言い出したりせず、調理室の床の上にそのまま放置していたことだ。
 本当に嫌われてたんだなあ、と私はしみじみ思った。

 

 名探偵コナツ 第5話 
 江戸川乱歩類別トリック集成⑤

 (A)一人二役
  (2)共犯者が被害者に化ける

 

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