鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第17話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑰

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 由乃と連れ立って私は交番にやってきた。
「公園に痴漢が出たから捕まえて」
 痴漢の現場であると説明した公園に警官と三人でやってきた。
「犯人はどんな奴だったか覚えてますか?」
「それが全然覚えてないんです……」
 その若い警官の期待に由乃は応えることができない。心なしか怯えが見えた。由乃にしては珍しいことだ。
「すごく恐くて……。犯人が捕まらずにいるなんて不安です。私、よく痴漢に遭うんです。絶対捕まえてください」
「任せてください!」
 若い警官は張りきっていた。
 もっとがんばるように私はさらなる情報を警官に与えた。
「その子、頼りになる人が好きなの。いい人が彼氏になってくれれば友人として私も安心なんだよね」
 警官の鼻の穴が広がった。
 痴漢を捕まえるべく、私は公園のあちこちに目をやった。
 そこそこ広いが遊具はなく、敷地を縁取るように木々が生えていた。ボール遊びしている子どもや立ち話をしている主婦らしき人々の姿があった。
「あいつは?」
 警官は一人の男を指さして聞いた。
 私たちの返事も待たずに、警官はその男――小野田大樹を捕まえた。由乃に対して痴漢した前科のある少年だ。
 手錠のかかった状態の小野田を連れて、警官は意気揚々とこちらに戻ってきた。
「なんでその人を捕まえたの?」
「なんでって――」
 私はすべてを言わせず続ける。
「それはあなたが電車で由乃に痴漢行為を働いた本人だから。由乃が痴漢にあったのは本当。でもこの公園じゃなく、昨日の電車内だった」
「な――」
「意識してなのか無意識なのか、あなたは犯行時電車内で見かけた小野田君に罪を着せようと捕まえた。もし意識的な行動なら、電車内の痴漢も小野田君のせいにできて一石二鳥と考えたのかもしれない」
 電車内で私と由乃、小野田の三人は一緒だった。
 混んでいた都合上、小野田は離れた場所にいたので他人と思っていたのだろう。でも、警官は電車内で痴漢をする際、知人と出くわす危険を回避するため周囲の人物に目を配っていたから小野田が記憶に残っていた。
「もし僕が犯人だったら知らない振りをするさ。リスクが高すぎる」
 困ったような顔をして警官は言い訳した。
「普通ならそうする。でもあなたはしなかった。なぜならもし犯人を捕まえてかっこいいところを由乃に見せることができたら、自分に好意を持ってもらえる。あわよくば付き合えると思ってしまったから。そのお花畑な妄想が自らを破滅に向かわせた」
「……僕はそんなまぬけじゃない」
「まぬけよ。痴漢は欲望を制御できない。だから今回も制御できずに小野田君を捕まえた」 警官は口を閉じた。というより怒りのため歯を食いしばった。その怒りを私に向けていた。
 私に銃を向けた。
 本当にまぬけだ。
 痴漢は卑劣だが、素直に認めれば禁固刑はないし、警官をやめることになってしまっても社会復帰は容易だ。
 だが、人に銃を向けたとあっては軽い罪では済まない。
 距離一メートル。
 私は警官にその場で背を向けた。背中越しにも相手の動揺がわかった。私は右足を横に大きく出すと、それを起点に回転、私の体は銃の射線上から消えると同時に、右手で警官の右腕を掴んだ。左手で相手の右肩を押さえ、そのまま地面に引き倒した。
 銃を手から落とした警官は地面に顔をつけた状態で喚いた。
「な、なんであの交番に来た? 偶然か? 偶然なのか、畜生!」
「いざというとき助けを求められるようにこの近辺の警官の顔は大体覚えてるの」
 私は事件への遭遇率が非常に高い。そのため円滑な日常生活を送れるように、事件処理をいつでも人に振れるように警察関係者の顔を覚えていたのだ。
「嘘つけ! この嘘つき! 嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ!」
 怒鳴る警官を制圧した状態で、私は携帯を取りだし、知人の刑事に電話した。

 

 名探偵コナツ 第17話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑰
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (2)裁判官、警官、典獄が犯人