鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第25話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(25)

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「こいつが犯人よ!」
 我が家の隣に住む砂川楓が鈴木邦夫を指さした。
 砂川楓は我が家の隣に住んでいる。
 鈴木邦夫は砂川家の隣に住んでいて、砂川家を挟んで我が家の二軒隣だ。
「そんなことはない。私がやるはずがない!」
「あなたがやったのよ!」
「私が、私がズボンを降ろしてここでやったって言うのかっ?」
 鈴木は声を震わせて怒りを顕わにした。
 私は咳払いをした。
 砂川と鈴木が私に注目した。
 この地区に越してきてから数年来の付き合いであるため、二人とも私が名探偵であると知っていた。そのため今回も立会人として私をこの場に呼んだのだ。
「猫が犯人よ」
 私は厳かに言った。
「そうだ! 私がするはずがない。砂川の家の庭で野ぐそなんて!」
「そんなことわかってるわよ!」
 鈴木に続いて、砂川も怒鳴った。
「私が言ってるのわね、猫の糞をうちの庭に運んだのが鈴木さんってことよ!」
 改めて私たちは砂川家の庭に存在している猫の糞を見た。
 夏も間近。臭ってきそうだ。
 猫のものであるのか犬のものであるのか人のものであるのか素人には見分けがつかないだろう。だが、私にはわかる。これは猫の糞だ。
 見分けがつかなかったとしても推測でその事実に辿り着くことも可能だ。
 この付近に野良犬は存在しないが野良猫は数匹見かける。ハクビシンや狸などの目撃情報もない。
 それにここ数日、鈴木は猫の糞の被害に悩んでいた。
「今まで鈴木さんの家にしてたのに、今日はなぜか私の家よ。きっと先週私と喧嘩したことを根に持って、鈴木さんが自宅にあった猫の糞をここに持ってきたのよ」
 筋は通っている。
「それに、最近猫に餌をあげてるでしょ? そうやって手なずけて私の家に糞をするように仕向けたのかも……」
「そんなことできるわけないだろ。言葉も通じないんだ。猫の糞には困ってたけど、見てるうちにかわいくなって餌をやるようになったんだよ。懐いてはきたが、人に嫌がらせさせたりなんてしないよ」
 それぞれの主張を終えると、判決を求めるように二人は私を見た。
「猫が犯人よ」
 再び私は言った。
「ひとつの説があるの。餌をくれる家に猫は糞をしないってね。その結果、鈴木さんの家は糞の被害を免れるようになった。ただ、猫の生理現象事態は変わらないから隣の砂川さんの家でするようになった。そんなところよ」
 私の推理に二人は納得したようだ。
 鈴木は感心したように何度もうなずき、砂川は、へー、なんて言って口をすぼめた。
「じゃあ餌をやればうちも被害に遭わずに済むのね?」
 それにはひとつ問題があった。砂川が猫に餌をやるようになったら、次にその糞の被害を受けるのは我が家だろう。

 

 名探偵コナツ 第25話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(25)
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (10)動物が犯人