鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第25話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(25)

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「こいつが犯人よ!」
 我が家の隣に住む砂川楓が鈴木邦夫を指さした。
 砂川楓は我が家の隣に住んでいる。
 鈴木邦夫は砂川家の隣に住んでいて、砂川家を挟んで我が家の二軒隣だ。
「そんなことはない。私がやるはずがない!」
「あなたがやったのよ!」
「私が、私がズボンを降ろしてここでやったって言うのかっ?」
 鈴木は声を震わせて怒りを顕わにした。
 私は咳払いをした。
 砂川と鈴木が私に注目した。
 この地区に越してきてから数年来の付き合いであるため、二人とも私が名探偵であると知っていた。そのため今回も立会人として私をこの場に呼んだのだ。
「猫が犯人よ」
 私は厳かに言った。
「そうだ! 私がするはずがない。砂川の家の庭で野ぐそなんて!」
「そんなことわかってるわよ!」
 鈴木に続いて、砂川も怒鳴った。
「私が言ってるのわね、猫の糞をうちの庭に運んだのが鈴木さんってことよ!」
 改めて私たちは砂川家の庭に存在している猫の糞を見た。
 夏も間近。臭ってきそうだ。
 猫のものであるのか犬のものであるのか人のものであるのか素人には見分けがつかないだろう。だが、私にはわかる。これは猫の糞だ。
 見分けがつかなかったとしても推測でその事実に辿り着くことも可能だ。
 この付近に野良犬は存在しないが野良猫は数匹見かける。ハクビシンや狸などの目撃情報もない。
 それにここ数日、鈴木は猫の糞の被害に悩んでいた。
「今まで鈴木さんの家にしてたのに、今日はなぜか私の家よ。きっと先週私と喧嘩したことを根に持って、鈴木さんが自宅にあった猫の糞をここに持ってきたのよ」
 筋は通っている。
「それに、最近猫に餌をあげてるでしょ? そうやって手なずけて私の家に糞をするように仕向けたのかも……」
「そんなことできるわけないだろ。言葉も通じないんだ。猫の糞には困ってたけど、見てるうちにかわいくなって餌をやるようになったんだよ。懐いてはきたが、人に嫌がらせさせたりなんてしないよ」
 それぞれの主張を終えると、判決を求めるように二人は私を見た。
「猫が犯人よ」
 再び私は言った。
「ひとつの説があるの。餌をくれる家に猫は糞をしないってね。その結果、鈴木さんの家は糞の被害を免れるようになった。ただ、猫の生理現象事態は変わらないから隣の砂川さんの家でするようになった。そんなところよ」
 私の推理に二人は納得したようだ。
 鈴木は感心したように何度もうなずき、砂川は、へー、なんて言って口をすぼめた。
「じゃあ餌をやればうちも被害に遭わずに済むのね?」
 それにはひとつ問題があった。砂川が猫に餌をやるようになったら、次にその糞の被害を受けるのは我が家だろう。

 

 名探偵コナツ 第25話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(25)
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (10)動物が犯人 

さよなら私のクラマー

 このシリーズ、一ヶ月の間に四回読み返した。

 きっかけはアニメ。

 とあるアニメレビューではぼろくそな評価だったが、原作を読んでみようと思わせる魅力があった。

 結果、すばらしかった。

 ラストに賛否両論あるが、個人的にはいい終わり方だったと思う。

 

 


さよなら私のクラマー(1) (月刊少年マガジンコミックス)

 名探偵コナツ 第24話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(24)

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 ロープを持った犯人は、被害者がバス停から降りたところを狙った。被害者は死に、警察が遺体を運び去り、血の跡が残るだけになった現場に私はやってきた。
 例の如く、神津刑事が私を呼び出したのだ。
 中学生のときまでそんなことはなかった。それが高校入学後、まるで便利屋のように私を呼び出している。その結果、事件は早期解決するわけだから正しい判断なわけだが、刑事魂的なものは失ってしまったように感じた。
 横目で神津刑事を見ると、ちょうど欠伸をしていた。
 ダメ刑事、という単語が頭に浮かんだ。責任の一端は自分にあるような気がした。まあいい、と頭を切り換えた。
 ただでさえ毎日事件に遭遇するのだ。神津刑事の面倒までみる余裕はない。事件解決に集中しよう。
 事件の概要はこうだ。
 バス停にバスが停車、待ち伏せしていたらしい犯人が被害者をロープで絞殺した。バスの運転手は一部始終を目撃していた。犯人は目出し帽をかぶっていて、全身黒ずくめだったと証言している。とっさのことで助けに入ることができなかったとも語った。
 運転手のすぐ後ろに座っていた山田浩二というサラリーマンも同じ光景を目撃している。 運転手と山田浩二以外に五人の乗客がいて、その五人は直接事件を目撃していないものの、運転手と山田浩二の慌てる様子を目にしていた。
 ちなみにそのときそのバス停から乗車する人物はおらず、降車するのも被害者だけだった。バス停は森と呼べるような場所に隣接していていた。木々が目隠しになったこともあってか、少し離れた場所に民家が点在していたが他に目撃者はない。
「おかしいんだよね」
 と私はつぶやいた。
「なにが?」
 脳天気な顔で神津刑事が聞いた。
「なぜ犯人はわざわざバスが停車したばかりのバス停なんて人目につきそうなところで犯行を行ったのか?」
「それは待ち伏せしてたからだろ?」
「それだったら自宅とかでもよかった」
「自宅を知らなかったとか?」
「他にも疑問はある。この場所を犯行に選んだ以上、人に目撃されることは予想できたはず。実際、犯人は目出し帽をかぶっていた。それなのになぜ絞殺なんて時間がかかる方法を選んだのか?」
「返り血を気にしたんじゃないか?」
上着を回収するなりすればいい」
「処分に困るだろ」
「バッグにでも入れて現場を離れてからゆっくり処分すればいい。悠長に絞殺なんてするよりもそっちの方がよっぽど理に適ってる。もちろん検問なんかでバッグの中身を見られたり、捨てた衣服を警察が発見、DNA鑑定されるのを恐れたと考えれば筋は通るけど、そうするとそんな慎重な犯人がなぜ人目のあるような場所で犯行を行ったかやっぱりわからなくなる」
「目出し帽に絶対の信頼を持っていたんだろう」
 神津刑事の言葉でピンと来た。
 犯人は姿を見られても警察に捕まることはないという絶対の自信を持っていたのではないか? その理由は目出し帽だけではないはずだ。
 殺害に多少時間がかかっても刃物を使った刺殺や鈍器を使った撲殺よりも、絞殺の方が都合のいいこととは何か?
 犯行現場を誤魔化しやすいというのが真っ先に思い浮かんだ。刺殺では間違いなく出血するし、撲殺でもその危険はいくらかある。
 となると、バス停は殺害現場ではないということになる。
 だが、運転手も乗客もバス停が殺害現場だと証言している。正確には、運転手と山田だけだが。
 私は関係者全員の名前を神津刑事から聞いた後、運転手と山田浩二、乗客の五人を前に推理を披露することにした。
「犯人はあなただ、小林さん」
 私は誰の顔も見ずに言った。
 すると、小林を除く全員が小林を見た。
 神津刑事は、誰が小林だっけ、と慌てていたが、皆が一人を見ているのでその人物が小林だと気づいてそちらを見た。
 言葉にならないような声を発する者、全身に緊張を張り付かせた者、黙って私を見る者と人々は様々な反応を見せたが、一様にその顔には当惑が広がっていた。
 こういう場面でお決まりの「なぜこの人が?」みたいな台詞を口にする者はいなかった。いや、一人だけを除いて。
「なぜこの人が?」
 神津刑事は言った。
「あ、言い間違えた。言い直すね。小林さんも、犯人だ」
「……どういう意味だ?」
 私の言い直しに、ますますわけがわからない様子で神津刑事は聞いた。
「みんな小林さんの名前と顔を知っていた。おそらくこの乗客は皆、それぞれの存在を知っていた。田舎のバスで、いつも乗る顔ぶれは同じ。それで気心が知れたってわけね。そして今回、被害者を殺すために完全犯罪を目論んだ。運転手と乗客全員がぐるになって嘘の証言をして架空の犯人をでっち上げた。恐らく犯行はバスの中。そうすれば他の人間に犯行を目撃される心配は低くなる。血が出るような殺し方をすれば、死体を遺棄したとき殺害現場が違うことに気づかれると思ったから絞殺にした」
「しかし、他の乗客が乗ってくるかも……」
「そのときは犯行を断念すればいい。たぶん、被害者もバスの常連だった。チャンスはいくらでもある」
「死体を降ろすときはどうだ? バス停で人が待っていたら……」
「そのときは死体を座席に座らせて寝ているように見せかければいい。隣に座っていればいくらでも誤魔化せる。それにこのバス停で人が乗ることはほとんどないと運転手は知っていた。だからこそ、ここを死体遺棄現場に選んだ」
「動機は?」
「さあね。人が集まれば何かしらトラブルは起こるよ。例えば一年前、確かこのバスを利用していた女子高生が自殺したって事件があった」
 私の言葉に犯人達の顔が歪んだ。怒りや悲しみ、そして後悔。それは、今回の事件によってでなく、過去に起こった女子高生の自殺によってであることは疑いの余地がなかった。


 名探偵コナツ 第24話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(24)
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (9)意外な多人数な犯人 


 ロープを持った犯人は、被害者がバス停から降りたところを狙った。被害者は死に、警察が遺体を運び去り、血の跡が残るだけになった現場に私はやってきた。
 例の如く、神津刑事が私を呼び出したのだ。
 中学生のときまでそんなことはなかった。それが高校入学後、まるで便利屋のように私を呼び出している。その結果、事件は早期解決するわけだから正しい判断なわけだが、刑事魂的なものは失ってしまったように感じた。
 横目で神津刑事を見ると、ちょうど欠伸をしていた。
 ダメ刑事、という単語が頭に浮かんだ。責任の一端は自分にあるような気がした。まあいい、と頭を切り換えた。
 ただでさえ毎日事件に遭遇するのだ。神津刑事の面倒までみる余裕はない。事件解決に集中しよう。
 事件の概要はこうだ。
 バス停にバスが停車、待ち伏せしていたらしい犯人が被害者をロープで絞殺した。バスの運転手は一部始終を目撃していた。犯人は目出し帽をかぶっていて、全身黒ずくめだったと証言している。とっさのことで助けに入ることができなかったとも語った。
 運転手のすぐ後ろに座っていた山田浩二というサラリーマンも同じ光景を目撃している。 運転手と山田浩二以外に五人の乗客がいて、その五人は直接事件を目撃していないものの、運転手と山田浩二の慌てる様子を目にしていた。
 ちなみにそのときそのバス停から乗車する人物はおらず、降車するのも被害者だけだった。バス停は森と呼べるような場所に隣接していていた。木々が目隠しになったこともあってか、少し離れた場所に民家が点在していたが他に目撃者はない。
「おかしいんだよね」
 と私はつぶやいた。
「なにが?」
 脳天気な顔で神津刑事が聞いた。
「なぜ犯人はわざわざバスが停車したばかりのバス停なんて人目につきそうなところで犯行を行ったのか?」
「それは待ち伏せしてたからだろ?」
「それだったら自宅とかでもよかった」
「自宅を知らなかったとか?」
「他にも疑問はある。この場所を犯行に選んだ以上、人に目撃されることは予想できたはず。実際、犯人は目出し帽をかぶっていた。それなのになぜ絞殺なんて時間がかかる方法を選んだのか?」
「返り血を気にしたんじゃないか?」
上着を回収するなりすればいい」
「処分に困るだろ」
「バッグにでも入れて現場を離れてからゆっくり処分すればいい。悠長に絞殺なんてするよりもそっちの方がよっぽど理に適ってる。もちろん検問なんかでバッグの中身を見られたり、捨てた衣服を警察が発見、DNA鑑定されるのを恐れたと考えれば筋は通るけど、そうするとそんな慎重な犯人がなぜ人目のあるような場所で犯行を行ったかやっぱりわからなくなる」
「目出し帽に絶対の信頼を持っていたんだろう」
 神津刑事の言葉でピンと来た。
 犯人は姿を見られても警察に捕まることはないという絶対の自信を持っていたのではないか? その理由は目出し帽だけではないはずだ。
 殺害に多少時間がかかっても刃物を使った刺殺や鈍器を使った撲殺よりも、絞殺の方が都合のいいこととは何か?
 犯行現場を誤魔化しやすいというのが真っ先に思い浮かんだ。刺殺では間違いなく出血するし、撲殺でもその危険はいくらかある。
 となると、バス停は殺害現場ではないということになる。
 だが、運転手も乗客もバス停が殺害現場だと証言している。正確には、運転手と山田だけだが。
 私は関係者全員の名前を神津刑事から聞いた後、運転手と山田浩二、乗客の五人を前に推理を披露することにした。
「犯人はあなただ、小林さん」
 私は誰の顔も見ずに言った。
 すると、小林を除く全員が小林を見た。
 神津刑事は、誰が小林だっけ、と慌てていたが、皆が一人を見ているのでその人物が小林だと気づいてそちらを見た。
 言葉にならないような声を発する者、全身に緊張を張り付かせた者、黙って私を見る者と人々は様々な反応を見せたが、一様にその顔には当惑が広がっていた。
 こういう場面でお決まりの「なぜこの人が?」みたいな台詞を口にする者はいなかった。いや、一人だけを除いて。
「なぜこの人が?」
 神津刑事は言った。
「あ、言い間違えた。言い直すね。小林さんも、犯人だ」
「……どういう意味だ?」
 私の言い直しに、ますますわけがわからない様子で神津刑事は聞いた。
「みんな小林さんの名前と顔を知っていた。おそらくこの乗客は皆、それぞれの存在を知っていた。田舎のバスで、いつも乗る顔ぶれは同じ。それで気心が知れたってわけね。そして今回、被害者を殺すために完全犯罪を目論んだ。運転手と乗客全員がぐるになって嘘の証言をして架空の犯人をでっち上げた。恐らく犯行はバスの中。そうすれば他の人間に犯行を目撃される心配は低くなる。血が出るような殺し方をすれば、死体を遺棄したとき殺害現場が違うことに気づかれると思ったから絞殺にした」
「しかし、他の乗客が乗ってくるかも……」
「そのときは犯行を断念すればいい。たぶん、被害者もバスの常連だった。チャンスはいくらでもある」
「死体を降ろすときはどうだ? バス停で人が待っていたら……」
「そのときは死体を座席に座らせて寝ているように見せかければいい。隣に座っていればいくらでも誤魔化せる。それにこのバス停で人が乗ることはほとんどないと運転手は知っていた。だからこそ、ここを死体遺棄現場に選んだ」
「動機は?」
「さあね。人が集まれば何かしらトラブルは起こるよ。例えば一年前、確かこのバスを利用していた女子高生が自殺したって事件があった」
 私の言葉に犯人達の顔が歪んだ。怒りや悲しみ、そして後悔。それは、今回の事件によってでなく、過去に起こった女子高生の自殺によってであることは疑いの余地がなかった。

 


 名探偵コナツ 第24話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(24)
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (9)意外な多人数な犯人 

 名探偵コナツ 第23話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(23)

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 被害者は心不全によって亡くなった。
 就寝中、ベッドの中での出来事だ。
 被害者は心臓が弱かった。普通なら病死で片づく話だが、生前命を狙われているとうわごとのように言っていたとの証言があったため、警察が現場検証をすることになった。  神津刑事に呼ばれて私も同行した。
 寝室、警察はすでに遺体を運び出していたが、それ以外は死体発見時そのままだということだ。
 現場を見るなり、
「殺しの可能性はある」
 と私は言った。
「どうして?」
 神津刑事は不思議そうに聞いた。
「布団が綺麗に半分めくれ上がってる」
「だから?」
「上半身を一度起こしたからだと思う。もし心臓発作によって苦しんだなら布団はもっと乱れただろうし、苦しまなかったとすると布団は持ち上がっていないはず。被害者は上半身を持ち上げた後、発作に襲われた」
「ただ単に目を覚まして上半身を持ち上げたときに発作に襲われたのかもしれない」
「その可能性もある。でも、上半身を持ち上げたとき何か驚くべきことがあって発作を
起こしたのかもしれないし、何かに驚いて上半身を起こしたとき発作を起こしたのかもしれない」
「寝室だぞ? 何に驚いたっていうんだ? 恐い夢でも見たのか?」
「あるいは、恐いものを見た」
「例えば殺人鬼とか?」
「命を狙われてるって生前から口にしていたなら、殺人鬼を見たら殺人鬼が手を下す前に心臓発作を起こしても不思議じゃない」
 一階に下りて居間に行くと、被害者の息子二人がいた。二人とも三十は過ぎているが、実家暮らしだ。
 長男の拓実と次男の省吾だ。
「お二人の部屋を見せてもらいたいんだけど、いいですか?」
 神津刑事が聞いた。
「嫌だっていってもどうせ見るんでしょ?」
「……まあ、そうです」
 神津刑事と私がそれぞれの部屋に向かうとき、二人ともついてきた。
 まずは長男、拓実の部屋だ。
 まさに殺人事件の容疑者の部屋といった様相だった。
 壁一面に、コンバットナイフやモデルガンが飾ってあり、クローゼットの中には軍服がぎっしりと詰まり、ガスマスクも数点あった。サバイバルゲームもやるのか、BB弾の入った袋も置かれていた。
「もし、ここのナイフでも銃でも枕元に持って立っていたら、お父さんがびっくりして心臓発作を起こしてもおかしくないですね」
 神津刑事はきりっとした顔で拓実を見た。
「待ってください。僕にはアリバイがありますよ。死亡推定時刻は午前一時から午前五時でしょ? 僕と省吾は共通の友人の家にいて朝まで麻雀をやってたんです」
「ええ、確認は取れてます」
「なら、言わないでください」
 拓実がきつめに言ったので、神津刑事はしょんぼりしてしまった。
「これ、最近着たの?」
 私はクローゼットの一番左側に入っていた軍服を手に取って見せた。
「え?」
「これ、袖のところが両方とも破けてる」
「あ、ああ、サバゲーの時腕の太い友人に貸したせいで」
 拓実は口をもごもごさせながら言った。
 次は次男、省吾の部屋だった。
 ドアを開けると埃が舞い、神津刑事がむせた。
 こちらの部屋も趣味に溢れていた。部屋の中央にはベッドがあり、それを取り囲むようにして壁一面にガラスケースが並べてあった。
 中身はガンプラだ。ざっと見ただけで、五百体はあるだろう。その中で特に目立っていたのはドアを開けてすぐ左手に置かれた人型サイズのガンダムだ。
 大人の男と同程度の背丈がある。
 趣味だねえ、と神津刑事はつぶやいたが、呆れというよりは憧れが表情から覗えた。男というのはそういうものなのだろう、と私は勝手に納得した。
「お兄さんと違って弟さんの方はあまりきれい好きではないみたい」
「え?」
「部屋一面埃だらけ」
「ガラスケースに守られてるからプラモは無事だよ」
 私はプラモのことなど心配していなかったが、省吾は勝ち誇ったような言い方だ。
「この大きなガンダムは埃だらけよ」
「それは、確かに問題だ」
 省吾は、痛いところを突かれた、という顔をした。もちろんガンダムの状態など私にとってはどうでもいいことだった。
「だから、犯行がばれる」
「え?」
ガンダムの足形と埃の積もった位置が一致しない。埃の積もっていない部分が見えてるのは最近動かしてからまた元に戻したから。どこに動かしたのか? 被害者の寝室。被害者が寝付いた頃を見計らって運び込んだ。そうしておいてから自分はアリバイを作るために友人宅に遊びに行った。夜中目が覚めて等身大ガンダムが立っていたらさぞびっくりしたでしょうね」
「そ、そんなのただの推測じゃないか」
「事実を推測によって当てたの。あなたも人ごとじゃないよ」
 私は拓実を振り返った。
「え?」
ガンダムに軍服を着せた」
「そ、そんな滑稽な」
「軍服だけじゃなく、ガスマスクをつければまるで人間が立っているように見える。寝起きの人間なら特に誤認する可能性が高い。それに、共犯関係を成立させるために軍服とガンダムのコラボは必要だった。互いに裏切らないようにするためにね」
 拓実と省吾は互いに目を見合わせ、同じタイミングでうつむいてしまった。
「どういうことだ?」
 神津刑事はガラスケース内のモビルスーツに目を奪われていたせいか、私の話をほとんど聞いていなかったようだ。
「要約すると、ガンダムが犯人だった」
ガンダムはそんなことしない!」
 神津刑事は珍しく強い口調で言った。
 私は少し気圧された。すぐに反論しようと思ったが、確かに神津刑事の主張は正論だった。
 ガンダムは、モビルスーツは悪くない。悪いのは常にそれを利用する人間なのだ。

 

 名探偵コナツ 第23話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(23)
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (8)人形が犯人 

 名探偵コナツ 第22話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(22)

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 その死体、四十キロの鉄アレイが顔面を直撃したことが死因なのは一目瞭然だった。
 被害者は七十五歳の男で、自室の布団上で寝ていた。周囲には薄いベニヤ板の破片が散乱していた。
 そのベニヤ板とは対照的に厚みのある長方形の板が死体の腹の部分に載っていた。長さは百センチほどだ。
 死体は同居している息子が発見した。
 一見、犯人は鉄アレイを持ち上げて就寝中の被害者の顔面に落としたものと思えた。
 だが、散乱しているベニヤ板の破片が気になって、私は天井を見上げた。
 天井には破れた跡があった。その隙間は鉄アレイを通すことが可能であり、散乱している破片と符合しそうだ。
 そして、先ほどから感じている異臭の発生源が天井裏であることを確信した。すごく臭う。おかしいとは思っていた。目の前にある死体は死後半日も経っておらずそれほど臭うはずがないのだ。
 さすがに神津刑事もそのことに気づき、鑑識に天井裏を調べるように頼んだ。
 鑑識が新たに発見した死体は最初の被害者が幸福に思えるような状態だった。腐乱により体のあちこちが欠損していたのだ。
 大量の消臭剤が天井裏に設置され、小型の扇風機が稼働していて臭いを屋外に排出していたがそれで死体の臭いを防ぐのは無理だ。
 この時点で犯人は判明した。天井裏に臭い消しの細工を施すことができて、それでも漂う臭いを我慢していた人物だ。
「どういうことだ?」
 神津刑事は天井と死体を交互に見比べて頭をかしげていた。
 殺人のトリックも犯人もすでに私にはわかっていた。
 そのことは事件の全貌がまったくつかめていないにもかかわらず、神津刑事にはわかったようで、私の方を見てきた。
「犯人は長方形の板を天井裏にセットすると、その端に死体を置き、反対の端に四十キロの鉄アレイを置いた。鉄アレイ下の天井は本来の板を外して、耐久性が全くないと言っていいベニヤ板に張り直した。
 それでも死体の体重の方が鉄アレイより重いからベニヤ板を突き破って鉄アレイが下に落ちることはない。
 だけど、日が経つに連れ死体は腐敗し、それによって重さを減じる。ある時点で死体は鉄アレイより軽くなり、鉄アレイを支えきれなくなることで、鉄アレイは寝たきりの被害者の顔面へと落ちる」
 私が語り終わった後も、神津刑事は呆然としていた。
 そして、やっと言った。
「……なんで、そんな面倒なことを?」
「犯人は被害者に深い憎しみを抱いていた。それも一度や二度ひどい目に遭わされたというのではなく、長い間をかけて憎しみを募らせたと考えられる。だから殺害方法も気の長いものになった。犯人として一番可能性が高いのは肉親よ」
 私は第一発見者の息子を見た。
 まだ神津刑事は戸惑っている。
「じゃあ、天井裏の死体は誰だ?」
「母親ですよ」
 私が答えるまでもなく、息子は答えた。自供だ。
「父親だけじゃなく母親にも恨みを抱いていたのか?」
「違いますよ。母親と僕は同志でした。共に父の被害者でした。だから一緒に復讐を果たしたんじゃないですか」
「あんな、あんなひどい状態で放置して何が同志だ!」
 神津刑事は怒鳴った。
 一瞬、我に返ったようになった息子だが、すぐに冷静な表情を取り戻した。

 

 名探偵コナツ 第22話

 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(21)
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (7)死体が犯人 

 名探偵コナツ 第21話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(21)

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 その喫茶店ではウイルスの感染対策として、客は入口で体温を測らなければならず、37度5分以上あると入店できなかった。
 午後一時、店で事件が起こった。
 店内の椅子のいくつかに犬の糞が置かれていたのだ。運悪くその上に座ってしまった客によって事件は発覚した。
 すぐに有力容疑者が挙がった。
 ウェイトレスの一人、鈴木英子に付きまとっていた柳圭吾という男だ。
 午後三時、私と神津刑事は、柳のアパートで柳本人から事情を聞いていた。
「だから俺じゃないって。見てみろよ。この通り風邪を引いてる。無理だ」
 柳の言うとおり、熱で顔は赤くなり、鼻づまりがひどいのか鼻声だ。
「いくら変装したってあの店には入れないよ。仮病じゃないぞ。午前中に医者に行って熱を測ってるからな」
 私は例の喫茶店から借りてきた体温計で柳の体温を測ることにした。額に近づけてからボタンを押すと、すぐに結果が出た。
 38度。
 間違いなく風邪だ。
「店で使ってるのと同じ体温計に細工をして、それで計ってみせたのかもしれない」
 神津刑事は珍しく頭を働かせて推理した。
「生憎だな。あの店の体温計には店のものだって示すシールが貼ってある。そのシールはオリジナルだ。ほら」
 柳は私がテーブル上に置いた体温計を指さした。確かに持ち手のところにウェイトレスの顔写真が貼られていた。趣味がいいかどうかはともかく、オリジナルなのは間違いない。「詳しいじゃないか。ますます怪しいぞ」
「怪しいってだけで捕まえるのかよ? 証拠はないだろ。さっさと帰ってくれ。寝たいんだ。早く治さないと仕事にも支障があるからな」
「シールはプリンターとパソコンを使えばいくらでも自作できるだろ」
「うちにはパソコンもプリンタもないよ」
「もっと簡単な方法がある」
 私は神津刑事と柳の会話に割って入った。
「店の体温計を使うけど、計るのは店員じゃなくて自分自身なのよね?」
「……そうだ。あまり近づかない方がいいってことだろ。まあ、でも店員の目の前で計ってるからあまり意味があるようには思えないけどな」
 私は店から借りてきた体温計を再び手に取った。
 それから神津刑事に言った。
「神津刑事。窓の外からスナイパーがこちらを狙ってる」
 左側の窓を向いた神津刑事の首筋に体温計を当てた。
「スナイパーなんていないじゃないか」
 神津刑事がこちらを向いたとき、柳は呼吸を止めていた。再び呼吸を再開したときは息が荒くなっていた。
 体温計のデジタル表示は36度8分。これが神津刑事の標準体温だとすると、免疫力が高そうな数字だ。
「床に何かが落ちてるって店員に言って、店員が下を向いたとき首筋に体温計を当てた。店に出てるぐらいだからその店員は平熱。あなたはその人の体温を自分の体温と偽って、その表示を見せたから入店を認められ、店内で工作することができた」
 私は立ち上がった。
「自首するのは風邪を治してからでいいよ。警察の人も移されたら迷惑だろうしね」

 

 名探偵コナツ 第21話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(21)
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (6)不具者、病人が犯人 

 名探偵コナツ 第20話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑳

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「事故だな」
 神津刑事は言った。
 死亡したのは芝山千春。二十八歳の主婦で、夫ともうすぐ一歳になる息子との三人暮らし。
 二階建ての一軒家である自宅、その一階の居間で亡くなっていた。
 死亡推定時刻は午後三時とまだ明るい時間帯だったが、防犯意識は高かったらしく、すべての窓とドアは施錠されていた。犯人が事故と見せかけるために密室を造りだしたということはなさそうだ。
 死因は後頭部を棚の角にぶつけたこと。
 被害者は足を滑らせて後ろにひっくり返ったらしい。それを裏付けるように絨毯の位置がずれていた。そのことは夫の証言からすぐに裏が取れた。
「事故だな」
 神津刑事はもう一度言って、私の方を確認するように見た。同意してほしいようだ。不安そうに目が泳いでいた。
 もちろん、これは事故ではない。
 殺人だ。
 そうでなかったら私はさっさとこの場を立ち去っている。
 窓から庭の外が見える。赤ん坊を抱っこしてあやしている父親が庭にいた。腕が辛そうだ。その赤ん坊はとてもまだ一歳になっていないとは思えないほど巨体だった。
 私は庭に出ると、被害者の夫であり、赤ん坊の父親である男に許可を取って、赤ん坊を抱っこさせてもらった。
 想像通り重かった。
 その腕をよく見ると、絨毯の跡がつきうっすらとあざになっていた。
 赤ん坊がハイハイしフローリングの床から絨毯に移動するとき、その見事な前腕で絨毯を引っ張ってしまったのだろう。その結果、絨毯上に立っていた母親はひっくり返った。 あくまで可能性のひとつだ。
 だが、名探偵の勘はそれが真実だと私に告げていた。
 私の中でこの事件は解決した。
 礼を言って父親に赤ん坊を返すと、私はその家を後にした。

 

 名探偵コナツ 第20話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑳
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (5)犯行不能と思われた幼年又は老人が犯人