ここはとある屋敷の庭だ。テニスコート三面ぐらいの広さがある。辺り一面砂利で殺風景なことこの上ない。
神津刑事は溜息をついた。
「もったいない。俺だったらパターゴルフのコースを造るね。金持ちの考えることはわからないな」
「たぶん、雑草が生えるのを防ぐためよ」
「それにしても、これだけの広さがあるんだから、木を植えたり芝生を植えたり、いろいろ工夫のしようがあると思うが。金持ちの庭といったら池に鯉が定番だろ?」
「屋敷の主人はケチで有名だからね」
「だったらそもそもこんな広い庭いらんだろ」
庭の中央にはこの屋敷の一人息子、田中広也十四才が倒れていた。頭部から出血していて、頭を殴打されたものと思われる。
通報したのは通りがかりの主婦で、倒れている広也を見て駆け寄ったそうだ。そのとき、広也の横には広也の父、田中秋継三十六才が立っていた。
どうしたんですか? と訪ねた主婦に、誰かが広也を叩いて逃げていった、と秋継は答えたそうだ。
「犯人はあなたよ」
と私は秋継を指さした。
「凶器がないだろ。家の中を見てもらっても構わん」
確かに秋継は両手に何も持っていなかった。ズボンのポケットも膨らんでいない。神津刑事が中を検めたがハンカチしか入っていなかった。
他の刑事が家の中を調べるため入っていった。
私は秋継から目を離さなかった。
「靴下脱いで」
「な――」
「靴下に砂利を詰めて、それを使った。調べればすぐにわかる」
「かっときてしまって――」
たちまち秋継は弁解を始めた。
「かっときて、靴下に砂利を詰めて息子を殴ったって言うの?」
「そういうことがあるんだ、私には」
「殺すつもりなかったかもしれないけど、この手の暴力を日常的に行っていたってこと?」 私の質問に秋継は黙った。
名探偵コナツ 第53話
江戸川乱歩類別トリック集成(53)
【第四】兇器と毒物に関するトリック
(A)兇器のトリック
(4)殴打殺人