そのマンションの一室はバリアフリーが行き届いていた。2LDK。床とドアの開閉部に段差はなく、広々とした造りだ。
トイレや風呂、キッチンなどには金属製の手すりが設置されていた。
寝室。ダブルベッドの置かれた窓際下の壁にも手すりが付いていた。ちょうどベッドに寝ている人間と平行になる位置関係だ。
被害者の田端秋人は絞殺死体としてリビングに仰向けで横たわっていた。
首の鬱血痕から凶器は縄と思われる。
すぐに被害者に恨みを持つ人物の名前が上がった。
前山聡史。
被害者の同居人だ。
私と神津刑事は前山と向き合った。
前山は左手を骨折していた。その上、電動の車椅子に乗っていた。幼少の頃に事故に遭い、それ以来自分の足で移動するどころか立つことすらできないそうだ。それは確かなことだった。
「刑事さん。見ての通り、僕には秋人を殺すことはできませんよ。右手だけでは無理しょう。それにこの足じゃあね……」
前山は自嘲気味に言った。
「可能です」
私は言った。
「車椅子に縄をくくりつけ、ベッド横の手すりに縄を巻く。その縄を被害者の首に巻きつける。後は、車椅子で前進する。縄は犯行後処分した」
「証拠は?」
「鑑識が調べれば車椅子と手すりから縄の成分が見つかる」
私はそれだけ言うと、マンションを後にした。
名探偵コナツ 第55話
江戸川乱歩類別トリック集成(55)
【第四】兇器と毒物に関するトリック
(A)兇器のトリック
(6)絞殺