鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第56話  江戸川乱歩類別トリック集成(56)

 神津刑事はいつものように事件内容を女子高生である私に語り始めた。
「頭部の傷跡から凶器はこの岩で間違いないそうだ」
「二十キロぐらいある岩に頭を打ち付けて死んだ?」
「それが、昨日までこの空き地にこんな岩はなかったそうだ。つまり、犯人がこの岩を使って被害者を殺害し、死体と凶器をここに放棄したと考えられる。それか、犯人は被害者とここで待ち合わして、持ってきたこの岩で頭部を殴打した」
「十キロもするものをわざわざ凶器に選ぶとは思えない」
「だが、現実にはそう考えるしかないんだ。犯人はきっと馬鹿だったんだ」
 事故の可能性は低いだろう。
 前日まではなかった岩が突如出現し、その岩に頭を打ち付けて人が死ぬ。ほとんどあり得ない状況だ。岩につまずいて転んだということなら考えられるが、もしそうだったとしたら痛い思いをしたにしても死に至ることはなかっただろう。
 被害者の家族に会いにマンションへと向かった。
 高層マンションだったが、周辺の手入れはされていなくて、草は生え散らかり、木々は剪定がされていなかった。
「……夫は、仕事に失敗して。首になりそうだって、落ち込んでいて」
 被害者の妻は終始うつむいていた。
 私は話を一通り聞いた後、マンション周辺を見て回った。
 私は立ち止まり、つぶやいた。
「あの人、自殺したんだ」
「なんでわかる?」
 神津刑事の質問には答えず、私は移動した。
 神津刑事はついてきた。
「ここ見て。土が周辺の他の部分より黒い。ちょっと前まで何かが置かれていたからだと考えられる。この面積、あの岩がぴったりだと思わない? 被害者は屋上か高層階から飛び降りてここにあった岩に頭をぶつけて亡くなった。自殺だと保険金が下りないから、あるいは世間体を考えて、家族は被害者の死を自殺ではなく事件に仕立てた。そのために死体と岩をあの空き地に運んだ」
「それが事実ならやるせないな……。でも殺人って事は――」
「それだったら最初から空き地で犯行を行ってるでしょ?」
「そうか、なるほど……」
「たぶん、そう……」

 

 名探偵コナツ 第56話
 江戸川乱歩類別トリック集成(56)
 【第四】兇器と毒物に関するトリック
 (A)兇器のトリック
 (7)墜落死