鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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名探偵コナツ 第54話  江戸川乱歩類別トリック集成(54)

 高校の男子生徒が校長と抱き合った状態で地面に倒れて死亡していた。
 だが、その校長はそもそも六十年前に死んでいた。現在の校長ではなく初代校長であり、生身ではなく彫像だ。上半身しかないものではなく、頭の先から爪先まである等身大のものだ。
 つまり、男子生徒は彫像に押しつぶされて圧死していた。
 床から三センチほどの高さの台座と、校長の足とは綺麗に切断されていた。そばに超音波カッターとのこぎりが置かれていた。
 そして、スマートフォンの設置された三脚が置かれていた。
「これは悪ふざけした上での事故だな。ユーチューブに動画として流すつもりだったんだろ。ふざけた奴だ」
 と神津刑事が早々に結論づけようとした。
 私は現場の状況に疑問を持った。
「そうかな? もしかしたら被害者は彫像が切断されていたことを知らなかったかもしれない。もし知っていたら彫像がすでに傷物だと知っていたことになる。自分に向かって倒れかかってきた時点で避けたはず。でも死体は彫像を受け止めたような格好をしていた。つまり、その状況はとっさに被害者が彫像をかばわなければいけないという意識が働いたことを示している。それか、一緒にいた第三者が彫像が倒れてきたとき『受け止めろ』って声をかけたのかもしれない。その結果被害者は死亡した。その第三者には加害の意思があったかもしれない。それかほんのいたずら心だったか。それは犯人に聞いてみないと分からない」
「あくまで想像だろ?」
「そうじゃないと彫像を切断した理由が思いつかない。三脚なんかも被害者が一人だったと誤認させるために犯人が置いた」
「だから被害者一人のいたずらだって。第三者がいたって証拠はないんだから」
 私はじっと神津刑事を見た。
「なんだ? 俺に論破されて悔しいのか? マジか? ついに俺勝っちゃった? あの名探偵江戸川小夏に?」
 さすがに呆れた。
 私は被害者のスマホに記録してあった録画映像を再生した。
 それを神津刑事に見せた。
「ざっと保存内容を見たら、ここに映ってる人達と動画撮影を一緒にしているのが多くあった。むしろ一人で撮影してることの方が少ない。つまり、事件当日もこの人達と一緒だった可能性が高い。犯人はこの中にいる」
 私はスマホ画面を指さして言った。
「一体この中の誰が――」
「全員かもしれないし、一人かもしれないけど、そういう地道な捜査をしてくのが警察の仕事よね?」
「いや頭を使って華麗に謎を解くのが――」
「それは名探偵の私の役割。あなたは、一から十まで私に頼らず足を使ってちゃんと情報を集めてこい」
 女子高生によるマジ説教に神津刑事は落ち込んでしまった。

 

  名探偵コナツ 第54話
 江戸川乱歩類別トリック集成(54)
 【第四】兇器と毒物に関するトリック
 (A)兇器のトリック
 (5)圧殺