鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第59話  江戸川乱歩類別トリック集成(59)

「それにしてもひどい歌声ね」
 私は由乃と同級生の三好早月の家に遊びにきていた。
 そこで早月のカラオケを聴いたのだが、ひどいものだった。まさしくジャイアンだ。しかし、本人は実に気持ちよさそうに歌っていた。
 なので私の指摘に、マイクを持ったままきょとんとした顔になった。
「今、なんて言ったの?」
「ひどい歌声って言ったの」
「あなた、喧嘩売ってるの?」
「売ってないよ。歌声がひどいから悪いと持って言ってない。ただ、ひどいって評価しただけ。ただ私の前で歌うときは事前に言ってほしい。耳栓するから」
 早月はマイクを振りかぶったが、振り下ろす寸前で止めた。うつむき、奥歯を噛み締めた。
 由乃が慌てて割って入った。
「つっきー。なっちゃんも悪気はないから、ちょっとひどい言い方だったけど、許してあげて」
「……私も、薄々わかってたのよ。自分の歌声がひどいって。両親はうまいねって褒めてくれるけど、私が歌い出すと顔を引きつらせて、寝室に閉じこもってしまうし、お兄ちゃんは外に遊びに行ってしまうし、みんな私の歌声が嫌いなんだなーって……」
 それでよく私達の前で歌おうと思ったものだ。
 典型的な下手の横好きだ。
 その場の空気を変えるためか、ぽん、と由乃が手を叩いた。
「そうだ。地下があるって言ったじゃない? そこで歌えばいいんじゃない? そしたらご両親にもお兄さんにも迷惑がかからないよ」
「まあね……。普段は地下室で歌ってるんだ。二部屋あって、その片方で。もう一部屋はお兄ちゃんが自分の部屋みたいに使ってるから、その時に私が歌うわけにはいかないじゃない? だからお兄ちゃんが地下室から上がってきたら、私が地下室に降りて歌うの。自分の部屋が荒らされないかって心配してるからか、お兄ちゃんは私が地下室に行くこと自体を嫌がるんだけど、両親はそれで助かるから、極力地下で歌うようにしてるよ。どうせ、お兄ちゃんが使ってる方は鍵がかかってて入れないし、荒らすことはないんだけどさ。あの人神経質すぎるんだよね」
 その日はそれでお開きとなった。

 翌日、一ヶ月間行方不明だった女子大生の遺体が林道脇で発見された。犯人は車でそこまで遺体を運んだと思われる。
 女子大生の首にはベルト痕があった。自殺か他殺かは解剖待ちだ。
 耳にはティッシュが詰められていた。
 その情報を聞いた私は、神津刑事に三好家の地下室を調べるように言った。
 早月の兄・疾手は事情聴取を受け、女子大生の死体遺棄を認めた。殺害については否認した。疾手の供述によると、死体遺棄をする前日、地下室に入ると、手首の拘束を取り、ベルトをドアノブに引っかけて首を吊っている被害者を発見したという。
「なんで被害者はドアを開けて助けを求めなかったんだ? 疾手が監禁していたわけで、妹の早月は無関係だったんだろ?」
「疾手が地下室を出ていくのを見計らって、早月は歌っていた。だから、被害者は早月を、歌声の主を疾手の協力者と思っていたのよ。疾手は被害者に拷問のようなことをしていたようだし、あの歌声もその一種だと思っていた。そして、その歌声に耐えきれなくなって自殺した」

 

 名探偵コナツ 第59話
 江戸川乱歩類別トリック集成(59)
 【第四】兇器と毒物に関するトリック
 (A)兇器のトリック
 (10)その他の奇抜な兇器