鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第61話  江戸川乱歩類別トリック集成(61)


「だからこれは事件じゃないって!」
「事件」
 と私は一言。
「あのなあ。何でもかんでも事件だって決めつけるのは考え物だぞ。心筋梗塞だって医者も言ってるだろ」
「でも解剖してないんでしょ?」
「それは病死だってわかりきってるんだ。何でもかんでも解剖してたらきりがない」
「きりがないことないよ。必要なときだけすればいい」
「それが今回の事件だっていうのか?」
「珍しく物わかりがいいね」
 私がそう言うと、神津刑事は頬をひくつかせた。
「じゃあ何だっていうんだ?」
「殺人よ」
「亡くなった人は二階の部屋に引きこもっていたそうだ。五時間ほどだ。その間妻と子供はずっと一階にいて、二階には上がっていない」
「そんなの嘘をついてるかも」
「ところがどっこい、宅配業者が訪ねてきた午後一時に、妻子とその宅配業者は二階から大きな物音を聞いたんだ。それで妻子が二階に上がったら、息絶えた夫を発見した。物音は心臓発作で倒れたときの音だったわけだ」
「妻子は宅配業者が大体何時くらいに来るか知っていた。希望時刻を伝えることができるからね。それに合わせて二階で音を発した」
「どうやって?」
「いくらでも方法はある。ものを倒してもいいし、録音した音声を流してもいい」
「宅配業者はちゃんと振動を感じたといった」
「じゃあ、実際にものを倒したんだ」
「だが床にはそんな傷がなかった」
「二階で倒れたってだけで二階のどの部屋かは住んでる人ならともかく、一度訪れた程度の人にはわからないよ。だから死体があった部屋とは別の部屋でそのトリックは使用した」「そうかもしれないが・・・・・・じゃあ具体的にどうやって殺したんだ?」
「被害者の奥さんは看護師だそうね。注射でも使ったんだじゃない? 病院から盗まなくても今時ネットで簡単に手に入るから」
「そんないい加減な――」
「二階の部屋をくまなく調べて傷跡を発見して、妻と息子のネット履歴を調べた上で話を聞けば案外簡単に白状すると思うよ。神津刑事のその強面ならね」
「強面? 俺はこれまでそんなこと言われたことないぞ? むしろ弱気が顔に出てるって――」
「自分の考えを否定されたせいで怖い顔になってたよ」
「それは――」
 私の指摘に、神津刑事の顔に弱気が出た。
 私は笑顔になると、その場を後にした。

 

 

 名探偵コナツ 第61話
 江戸川乱歩類別トリック集成(61)
 【第四】兇器と毒物に関するトリック
 (B)毒殺トリック
 (2)注射毒