鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第64話  江戸川乱歩類別トリック集成(64)

 よろよろと教壇から出てきた大輝は床の上にうずくまった。まだ頭がはっきりしていないようだ。
 私は大輝を集団用の縄飛びの縄ででぐるぐる巻きにした。ちょうどいいことに教壇の上に置かれていたからだ。
 大輝は立ち上がろうとしたが、私はその肩を押さえてその動きを封じた。上半身の自由がきかないため大輝は床に尻餅をつくことになった。
 私がいては立ち上がれないと悟ったか、大輝はその場にあぐらをかいた。
「大輝。もうセクハラはやめて」
 私は真面目に言ったが、大輝はむくれると顔を背けた。
 ぼそりと、
「美人税です」
 と言った。反省する気はまったくないようだ。
「もしそんな税があったとしてもあなたに払う必要はないでしょ。これ以上やるなら私も最終手段を取る他ない」
「へー、どんな手段ですか? まさか警察に訴えるんですか? 僕がやったことはどれも些細なことですよ。転びそうになって偶然江戸川さんとぶつかったり、自分との体型を比べたくて胸囲を聞いたり、名推理を披露してくれたから褒めるつもりで頭をなでなでしただけです」
「・・・・・・・・・・・・」
 私は怒りで歯を食いしばった。確かに大輝を実刑に処すのは難しいだろう。教師に訴えることで大輝の学内での評判を下げるのも本意ではない。いじめなどに発展したらやっかいだ。かといってこのまま放置するわけにもいかない。
「もしかして殺します? 名探偵が?」
 嘲るような笑い。
「死体を永久に隠す方法がいくつかある」
 私は押し殺した声で言った。
 何かの効果を期待したわけではなかった。私には珍しいことだがちょっとした現実逃避といったところか。
 大輝も鼻で笑っている。
「土の中に埋める」
「水中に葬る」
「死体に風船をつけて空中に葬る」
「焼却する」
「薬剤で溶かす」
「壁なんかに塗り込める」
「死体を他の物に変える。蝋人形なんかに変えるとおもしろいかも」
 やはり大輝は顔色一つ変えなかった。
 その代わり由乃の顔の輝きが増していく。私がそれらの死体隠蔽方法を実践することを期待してのことらしい。いや、さすがに殺すぐらいなら退学するように仕向けるし、私の方が転校する。
「蛇に丸呑みさせるなんていいかもね。髪の毛や体毛は消化できないから食べさせる前に全身剃らないといけないけど」
 大輝の顔色が変わった。
 お?
 その原因を私は瞬時に推察する。大輝だって私が本気で殺人を犯すとは思っていないはず。それなのになぜ? もしかして蛇が苦手? 違う・・・・・・。そうか!
「大輝君。もし今度私にセクハラしたら坊主頭にする」
 そっぽを向いていた大輝がばっとこちらを見た。
「冗談ですよね?」
「本気よ」
「そんな、そんなの完全な暴力ですよ!」
由乃にやらせる」
「誰がやったって・・・・・・」
由乃は嬉々としてやるよ。この子の性格知ってるでしょ? それにあなたはもしやられたとしても由乃を訴えることはなできない」
 それは由乃が財閥令嬢だからなのか、独特の雰囲気を持っているかなのかわからないが、大輝は由乃に一目置いているからだ(名探偵のこの私より!)。
「そんな――」
 大輝はうなだれた。
 どうやらこれで一件落着のようだ。
 私が一安心していると、大輝が言った。
「こうやっていつも犯人を追い詰めるとき、江戸川さんはエクスタシーを感じているんですか? 一種の性的興奮のような・・・・・・」
 ・・・・・・気持ち悪い。

 

 名探偵コナツ 第64話
 江戸川乱歩類別トリック集成(64)
 【第五】人及び物の隠し方トリック
 (2)永久に隠す
 (イ)土中に埋める(ロ)水中に葬る(ハ)死体に風船をつけて空中に葬る(ニ)焼却(ホ)溶解(ヘ)塗り込め(ト)死体を他の物に変える(チ)動物の餌食にする