鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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名探偵コナツ 第5話   江戸川乱歩類別トリック集成⑤

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 土曜日、小乃子が調理部の友人にお誘いを受けて、それに同行する形で私も調理部の活動に参加することになった。
 待ち合わせの時間は午後三時だったが、学校に早く来すぎてしまった私と小乃子は午後二時の時点で調理室を訪れた。
 ドアを開くと、人が倒れていた。その顔には見覚えがあった。調理部部長の音霧桐子だ。 私は駆け寄った。意識はないが命に別状はなさそうだ。
 音霧部長がうっすらと目を開けた。
「音霧部長。何があったの?」
「……わからない。私――」
 また意識を失ったと思ったら、音霧部長はいびきをかいて寝ていた。よほど寝不足だったのだろう。足下には脚立があり、蛍光灯が置かれていた。蛍光灯を代えている途中だったようだ。これは事故かあるいは事件か。現段階ではまだわからない。
 校舎内にいる生徒や教師に聞いて回ると、音霧部長は午後一時に二階の廊下で目撃されていた。
 倒れている彼女を発見したのは午後二時だ。
 事故あるいは事件は、午後一時から二時の間に起こったと推測できた。
 噂によると、音霧部長は調理部の部員全員から嫌われているらしい。理由は諸説あるが、とにかく嫌われているそうだ。
 聞き込みを終えて再び部室に戻ってきたときには、午後三時になっていた。その頃には音霧部長の弟、一年生の音霧猛が来ていた。背格好も顔立ちも音霧部長によく似ていた。 部員も八人全員集まっていた。
 午後一時から二時の間にアリバイのある者はたった一人。それ以外の部員にアリバイはなかった。
 残り七人から犯人を絞り込む?
 まさか!
 アリバイのある一人を調べろ、と私の直感が告げていた。
 その人物は、小日向舞。音霧部長と同じ三年生だ。
「小日向さん。なんでこんなことしたの?」
 私は決めつけた。
「ちょっと待ってよ。私にはアリバイがあるわ」
「ついさっき共犯者が白状したよ」
 私が告げると、小日向はとっさに音霧猛を見た。猛は固まった。そして小日向は、あ、という顔になった。そう、ブラフだ。私は小日向舞を引っかけたのだ。
「思った通りね。弟の猛君が変装して音霧部長のふりをして、廊下を歩くことでわざと目撃された。それでその間に小日向さんはアリバイを作っておいた。実際に事件が起こったのは午後一時前だった。小日向さん、午後一時以前にアリバイないでしょ?」
 私が断言すると、小日向舞は観念して事情を告げた。
「わたし……そんなつもりじゃなかった。桐子の奴、ドアを開けたら勝手にびっくりして脚立から落ちて頭を打ってそのまま動かなくなった。それで恐くなって猛君にわたしのアリバイを作ってもらったの。最初はその時間別の場所で一緒にいたってことにしようと思ったんだけど、わたしたち付き合ってるから信憑性がないかと思って、桐子に変装してもらったの。わたしと猛君が付き合ってることを知って、最近すごくきつく当たってきてて、そのことをみんな知ってるから変な風に疑われるんじゃないかってそれが恐くて……」
 部員たちは小日向の話を信じていないようだ。皆、音霧部長を嫌っていた。そのため事故で片づけるより、暴力沙汰があったと考える方がしっくりくるようだ。
 音霧部長が目覚めた。
「……わたし、ドアが突然開いてびっくりして……脚立から落ちて」
 音霧部長はうわごとのように言った。
 あ、ホントだったんだ、とみんな小日向の話を信じた。
 気絶した音霧部長を放置したことで教師は小日向を咎めたものの、後は比較的穏便にことは済んだ。
 それより驚きなのは寝ている音霧部長を見て誰も保健室に運ぼうと言い出したりせず、調理室の床の上にそのまま放置していたことだ。
 本当に嫌われてたんだなあ、と私はしみじみ思った。

 

 名探偵コナツ 第5話 
 江戸川乱歩類別トリック集成⑤

 (A)一人二役
  (2)共犯者が被害者に化ける

 

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アニメ・シティーハンターの快感とセクハラ

 アニメ・シティーハンターのラストがたまらない。ラストといっても最終回ではなく、毎話ごとのエンディングのことだ。終わり間際のシーンでエンディングテーマ曲『ゲットワイルド』が流れるのだが、わくわくする。

 その回の物語はそれで終わりなのだが、これからも主人公・冴羽りょうの活躍は続くのだという希望に満ちた、期待に満ちた印象を強く受けて、曲が流れ始めると興奮を禁じ得ない。

 俺がりょうの魅力にやられてしまっているからだが、非常にうまい演出だと思う。かつて、大学の先輩たちがカラオケで『ゲットワイルド』を歌いまくっていたが、その理由が今になってわかった。

 先輩たちはシティーハンターを見ていたのだ(たぶん)。

 とにかくそんな風に素敵なアニメなのだが、気になる点もある。

 りょうがセクハラしまくりなのだ。『このすば!』みたいに気の利いたセクハラ(あくまで個人的見解です)ならいいのだが、りょうの場合、尻を撫でたりベッドに誘ったり下着をありがたがったりと芸がない。

 しかも当時のおじさんたちは年下の部下に平気でそういう行為をしていたのだろうなという想像が働いてしまってアニメを純粋に楽しむ障害になってしまっているのは残念だ。

 物語と割り切って俺は楽しく見てるけど、セクハラ描写がきつくて見るのを諦めてしまっている人も多いだろう。

 


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 なんか今調べたら、GetWild退勤なるものが流行っていると知った。退勤すると同時にGetWildを聞くという行為だ。

 めちゃくちゃ良い仕事をした気分になるらしい。

 それわかる、と思った。

 GetWild、俺も車のUSBメモリに入れておこうかな……。

 

Get Wild

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名探偵コナツ 第4話  江戸川乱歩類別トリック集成④

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 私は戸山宗司が住むアパート前にやってきた。スマホのメモ帳を見て、間違いなくそこが戸山のアパートだと確認してから、周辺での聞き込みを行った。
 聞き込み相手は同じアパートの住人であったり近隣住民であったり、たまたまアパート前を歩いていた人だ。
 1時間後、情報収集が充分できたことに満足し、私は戸山宗司が住む部屋のチャイムを鳴らした。
 男がサンダルを突っかけて玄関に出てきて、左手でドアを支えた。私は顔を背けると、通路の端に行って深呼吸してからまた戻ってきた。
 訝しげな顔をしている男に向かって私は尋ねた。
「田中一郎さんね?」
「は? 俺は戸山宗司だけど」
「違う。あなたは田中一郎。戸山宗司はあなたが殺した人の名前よ」
「は? 何言ってんだ、お前? 頭おかしいんじゃないか?」
 田中一郎は怯えた目になって言った。私のことを怖がっているようだ。だが、その態度から私は自分の推理にますます確信を強めた。
「頭がおかしくなってるのはあなたよ。あなたは戸山宗司さんの部屋、つまりここで戸山宗司さんを殺した。だけど、あなたはそれをなかったことにしたいと思った。でも、戸山さんは死んでいる。なかったことにするには戸山さんを生き返らせなくてはならないと考えた。その方法はひとつしかない」
 私の説明を聞いて、田中一郎はごくりと唾を飲み込んだ。
「あなた自身が戸山宗司を演じること」
「ば、バカバカしい。推理小説の読み過ぎじゃないのか」
 田中一郎は鼻で笑うような口調で言ったが、動揺は隠しきれなかった。ドアを押さえていた手がずれて、みっともなくよろけた。
 だが、しらばっくれているわけではなさそうだ。やはり田中一郎は本気で自分が戸山宗司だと思い込んでいる、と私は当たりをつけた。
「一ヶ月前に、頭を打ったか何かした?」
「なんでそれを……?」
「そのときのショックで記憶が混乱して、演技だったのが、本気で自分が戸山宗司だと思い込むようになった。周りの人も自分のことを戸山と呼ぶから余計にね」
「ホントにバカバカしい。何しに来たんだ、おまえ?」
「あなたは頭を打った直後、戸山宗司の実家に電話した。そのとき母親は息子じゃない人から息子の携帯で電話がかかってきたから不審に思った。その結果、私に依頼が舞い込んだのよ」
 田中一郎は品定めするように私を見た。先ほどの動揺が治まり落ち着きを取り戻した。へらへらした笑顔さえ浮かべた。
 私は十五歳だ。特別身長が高いわけでも大人びた見た目をしているわけでもない。確かに大人の男が敬意を払うような年格好ではなかった。
 田中一郎は私をほんの小娘と侮っているのだ。
「警察じゃないだろ? 探偵でもない。こういう遊びが学校で流行ってるの?」
「うちの父が依頼を受けてくるの。そして、引き受けないと小遣いがもらえない。実に高校生らしい理由よ」
「金がほしいなら真面目にバイトしろ。子どもの遊びに付き合ってる暇はないんだ。さっさと帰れ。しっしっ」
「あなたは記憶喪失よ。自覚はあるでしょ?」
「うまく思い出せないことは多いが、戸山宗司なのは間違いない。そういうのは記憶喪失じゃなくて物忘れって言うんだ……」
「記憶喪失でなければ戸山宗司さんの実家に電話をかけたりなんてしない。記憶喪失になったあなたはアドレス帳の『実家』に電話をかけた。自分が何者かを知るために。だけど、そこに出た母親と名乗る声はあなたの記憶にある母親の声ではなかった。記憶は混乱していてもそれだけは直感的にわかった。だからすぐに電話を切った」
「でも、みんな俺を戸山さんって呼ぶ。ご近所の人はみんな」
「この一ヶ月、本来田中一郎であるあなたは、戸山宗司として認知されるために近所の人と積極的にコミュニケーションを取っていた。戸山宗司としてね。だけど、近所の人に聞いて回ったけどみんなあなたを戸山宗司とは思ってなかったよ」
「どういう意味だ?」
「戸山さんと呼ばれることはあっても戸山宗司と呼ばれることはないよね?」
「……そうだけど。普通、名字しか呼ばないだろ?」
「近所の人はあなたのこと、戸山宗司さんの兄だと思っていたみたいよ。一緒にアパートで暮らすようになったと思ってる。最近見かけないけど弟さんはどうしてますかって聞かれたことあるでしょ?」
「それは――」
 恐らく都合の悪いことはすべて聞き流していたのだろう。自分が戸山宗司であることが最優先になっていた。そのことに不都合なやりとりは違和感を覚えても無視していた。
「俺が戸山宗司じゃないとしよう。だけど、なんで田中一郎だってわかるんだ?」
「戸山さんの母親に聞いたよ。田中一郎というボランティアの人が二ヶ月ほど前からアパートに引きこもっている戸山さんの世話をしてくれているって。そして不審な電話の後、一番戸山さんの現状に詳しいだろう田中さんに母親は電話した。でも、出ない。警察に電話しようと思ったけど戸山さんが以前トラブルを起こしていて相談しにくい。母親は半分寝たきりの状態で訪ねていく気力も体力もなかった。そこで近所に住んでいた私の父に相談した」
「でも、殺してなんか――」
「なんで死んだのか? 田中さんはボランティアをしてるぐらいだから優しくて責任感の強い人だと思う。もし戸山さんの死因が事故なり自殺ならさすがに警察に届けているはず。だけど、自分の不用意な発言が自殺の引き金になったり、誤って殺してしまったとしたらどうかな? その責任感が悪い方向に向かってしまったのかもしれない」
「そんなことは――」
「田中さん。あなたは今混乱してる。正常な状態じゃない」
「そんなことは――」
「この臭いに気づかない時点でそれはわかってた」
「そんなことは――臭い?」
「この臭いの中生活できるなんて、正常だったら無理よ」
 アパートに近づいた時点で気づいていたが、田中がドアを開けてからその臭いは一層際立った。一度嗅いだら絶対に忘れられない、死体の臭いだ。

 

 名探偵コナツ 第4話 
 江戸川乱歩類別トリック集成④
 (A)一人二役
  (1)犯人が被害者に化ける
   【乙】犯行後に化けるもの
    【ロ】犯人が被害者と入れ替わってしまう。殺した被害者に化けきってそのまま生活を続ける。

 

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名探偵コナツ 第3話  江戸川乱歩類別トリック集成③

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 左右に民家の建ち並ぶ道を歩いていると、人だかりが目に入った。その隙間から民家の駐車場に止まっているパトカーが見えた。
 私は通り過ぎようとしたが、人だかりを尻目にしたところで気分が悪くなってその場に座り込んでしまった。あーだめだ、放っておけない。
 立ち上がった私は人垣を避けてその敷地内に入ると、玄関のチャイムを鳴らした。出てきたのは顔見知りだった。
「小夏君。また君か」
「午前中ぶりね、神津刑事」
 会うなり嫌味を言ってくる神津刑事と言葉を交わした。
 私が小学四年生の時、父の命令で少年探偵団を結成した頃くらいからの付き合いだ。そのときはまだ交番勤務だった。
 神津刑事は部外者の私にぺらぺらと事件のことを喋った。その方が仕事が早く片づくと経験的に知っているのだ。
 被害者は、東山美耶子。
 三十六歳。
 主婦。
 夫と小五の息子、小一の娘との四人家族。
 現在、夫は職場からこちらに向かっているが、後一時間はかかるらしい。
 発見時、被害者は自宅のリビングにうつぶせで倒れていた。凶器は床に置かれていた花瓶。花瓶からは誰の指紋も発見されていない。犯人によって拭き取られたようだ。
 犯行推定時刻は午後四時から午後四時二十分。
 私は神津刑事の案内でリビングにやってきた。被害者は病院へ搬送中だが、床にわずかに血の痕があった。
 神津刑事はスマホで被害者の発見時の画像を見せてくれた。救急車よりパトカーの方が速く到着したので撮影が可能だったのだ。
 被害者はサングラスにマスクをしていた。花粉症なのだろうか? 服装はワンピースに薄手のカーディガンとありきたりなものだった。
 容疑者は二人。
 一人目は、小五の息子・義男のママ友、遠藤由香里。
 二人目は、小一の娘・博弓のママ友、原敬子。
 その二人は他の刑事と話をしている。背後関係を詳しく調べたわけではないが、近所にいたので神津刑事の中では一応容疑者ということらしい。似たような髪型に、似たような背格好だ。画像で見た限り、被害者も似たような感じだった。
「さっさと警察に連れて行って取り調べればいいのに」
 私は部屋の隅で神津刑事に囁いた。
「それが、二人にはアリバイがあるんだ」
 神津刑事によると、犯行推定時刻の午後四時から午後四時二十分の間、遠藤由香里と原敬子の二人は八百屋の前で口論していたのだ。もちろん八百屋の主人が目撃者だ。
「ちょっと待って。なんで死亡推定時刻が午後四時から四時二十分なんて正確なの?」
「八百屋の主人が、午後四時ちょっと前に被害者を目撃していて、学校から帰ってきた息子の義男君が死体を発見して救急車と警察に通報したのが午後四時二十分だからだよ」
「その間にママ友二人は口論してたのね?」
「そうだ」
「被害者の東山さんはいつもサングラスとマスクをしていたの?」
「それが、人によってそれぞれ証言が違うんだ。しているという人もいればしていないという人もいて、ママ友二人の意見も割れていた。ただ、日常的にサングラスとマスクをすることはあったようだよ」
「そう。簡単なトリックね」
 私がそう言うと、神津刑事は眉根を寄せた。
「簡単ではないだろ……?」
「簡単よ。犯人は四時前に被害者を襲ってから、サングラスとマスクで被害者に変装して八百屋の前を通った。その後、変装を解いて何気ない風を装って相手と口論を始めた」
「変装なんて、推理小説じゃあるまいし」
「じゃあ、この家の前、一本道だけど、その八百屋ってここから数軒先の店よね?」
「……そうだ」
「一本道だけど、八百屋の主人は家に戻っていく被害者を見たの?」
「見たという証言は取れてないけど……」
「見てないからよ」
「一本道だからって見逃すことはあるし、別の道を通って戻ったのかもしれない」
「目撃されたのが午後四時ちょっと前で、その二十分以内には回り道をして家に戻って犯人に襲われないといけない。ずいぶん忙しいね」
「うう……」
 神津刑事はしばらく呻いていたが、なんとか気を取り直して言った。
「アリバイトリックはわかった。じゃあ、どっちが犯人なんだ?」
「子どもは?」
「あ、わかんないんだ?」
 神津刑事は子どもみたいなことを言い出した。私の推理を頼りにしているくせに、いざ謎解きをされると悔しいらしい。
「うるさいな。子どもに話を聞きたいんだけど、どこにいるの?」
「隣の部屋にいるよ。子ども部屋になってるんだ」
 私はドアを開けると、その部屋に入った。
 これまた顔見知りの刑事がいて、仰向けになって倒れていた。その上には小一の娘・博弓と思われる子がまたがっていた。
 その子は私に興味を示し立ち上がった。刑事は身を起こすと、逃げるように部屋を出ていった。後は任せた、と私に言い残して。
 博弓は私の正面に立つと、しゃがんだ。両膝を伸ばすと同時に両手を振り上げてスカートを盛大にめくった。ちょうどドアが開いて神津刑事が顔を出した。
「見に来たんですか?」
「いや、ち、違う。見てないから」
 と顔を逸らす。でも目線はしっかりこちらを向いていた。小四からの付き合いだというのに変態だろうか?
「スカートめくり!」
 また博弓はやった。
「……今度は見えなかった」
 神津刑事は正直に言った。
 博弓がまた私のスカートをめくろうとしたので、前蹴りでストッピングした。ちょうど足が鳩尾に入ったのかその場にうずくまって腹を押さえた。
「子ども相手に大人げない」
アメリカだとカウンセリングを受けさせるレベルの奇行ですよ」
 神津刑事の意見に対して、私は正論で答えた。
 博弓が大きく口を開けて私に襲いかかってきた。噛みつく気だ。避けた。背後にいた神津刑事が手を噛まれた。ぎゃーと悲鳴を上げた。
「博弓!」
 それまで椅子に座って静かに読書していた小五の息子・義男が怒鳴った。
「すみません。妹が乱暴して」
 義男は傷跡をふーふーしている神津刑事に謝ると、
「ほら、お前も謝れ」
 と義男が妹の頭を押さえた。
 今度は博弓、義男の腕に噛みついた。
 それから神津刑事のところにいくと、手をかばおうとするのを見て、噛まない噛まない、と優しく言って警戒を解いた後、じっくりとその歯形を見て、
「綺麗」
 と言った。
 私は傷跡をふーふーしている義男に声をかけた。
「あの娘、いつもああなの?」
「大体ああです」
「それともうひとつ聞きたいんだけど――」
 私は義男の答えに満足した。
「犯人わかったよ」
 小学生に鑑賞物にされている神津刑事に、私は言った。博弓は歯形をなぞってそのでこぼこを楽しんでいた。
「え、誰?」
「その前に確認ね。サングラスとマスクをしているときとしていないときの違い。それは何だと思う?」
「え、気分?」
「違う。娘の博弓と一緒にいるかいないかの違いよ」
「え? どういうこと?」
「博弓はあの通り、奇行が目立つ。一緒にいるのはすごく恥ずかしい。人は恥ずかしいときどうしたいと思う?」
「顔を隠したい?」
「そうよ。だからサングラスにマスクをしていた」
「なるほど……」
「息子の義男に聞いたけど、彼と一緒の時はサングラスもマスクもしていなかった。だから、息子のママ友である遠藤由香里は犯人から除外される」
「じゃあ、犯人は――」
「娘のママ友の原敬子よ。普段からサングラスにマスクの被害者を見慣れているから、変装に使えると思いついたのね」
 その点を指摘すると、原敬子はすぐに自白を始めた。
 東山美耶子も大事に至ることはなく、その日のうちに意識を取り戻し、翌日には退院したそうだ。

 


 名探偵コナツ 第3話 
 江戸川乱歩類別トリック集成③
 (A)一人二役
  (1)犯人が被害者に化ける
   【乙】犯行後に化けるもの
    【イ】被害者を殺した後で犯人自身が被害者に化けて、まだ生きていたと見せかけてアリバイを作る。

 

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エクスアームを読んで

 ヒロイン二人組が可愛い。個人的には黒髪の子が好きだ。

 『逮捕しちゃうぞ』を思い出した。

 もっと遡れば、スレイヤーズであり、ダーティペアだ。

 そこに歴史を見た。


EX-ARM エクスアーム リマスター版 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

名探偵コナツ 第2話 江戸川乱歩類別トリック集成②

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 放課後、校門に向けて歩いていると、クラスメイトの佐藤小乃子(さとうこのこ)が隣に並んだ。長い黒髪に白い肌、ほっそりした体つきと三拍子揃った美少女だ。走ってきたので少し息が荒かった。
「江戸川さん、今日は大変だったね。新学期早々あんな事件に巻き込まれて」
「いつものことだから」
「いつもの? 人が死んでるんだけど……」
「たまには死なないこともある」
「たまには?」
「冗談よ」
 物心ついたときから事件現場に遭遇してばかりだったが、殺人事件とそうでない事件、どちらが多いか数えたことはなかった。
 世間話をしているうちに私たちは校門を出た。
「じゃあね」
 私はひらひらと手を振った。小乃子の自宅がある方角は反対だったはずだ。自宅への帰路へと意識を向けた私に小乃子が声をかけた。
「校舎裏の丘に教会があるでしょ? そこに行ってみようよ」
「てことは、正反対だけど?」
 当たり前だが校門は校舎の正面にある。校舎裏とは真逆だ。
「一人より二人の方が楽しいよ。それにそこの教会には田之倉さんっていう名物牧師さんだか名物神父さんがいて、すごく楽しい人らしいの」
 どうやら教会に誘うためにわざわざ追いかけてきたようだ。
 小乃子は私の腕を取り目的地へと促した。おしとやかな見た目とは違って強引だ。
 腕を振り払うことは簡単だが帰っても特にやることはない。せっかく追いかけてきてくれたわけだし、とされるがままにしておいた。
 丘を登り、教会前までやってきた。マリア像があり、他にも複数の像があった。名前は知らないがすべて聖人のものだろう。
 小乃子は私から手を離すと、ドアの前に立った。
「鍵がかかってる」
 小乃子はドアノブを手をかけて何度か回した。
 行動的だ。
 まもなくドンドンと叩き始めた。
 おいおい。
 注意しようと決めたとき、ドアが開き初老の男が出てきた。黒い学生服のようなものを身につけていたが、それは足下をすっぽり隠すほど長く、ワンピースのように見えた。
「こんにちは! 田之倉牧師ですか?」
「はい、私は――」
「田之倉牧師ですよね? ここを一人で切り盛りしてるっていう?」
「はい、そうです。私が田之倉牧師です」
 田之倉は小乃子の勢いに気圧され気味に見えた。そのせいかどうか、何か言いかけようとしたが口をつぐんだ。
「私、幻影高校に通ってる佐藤小乃子って言います。中を見学させてもらってよろしいですか?」
 疑問形だが断られるとは思っていない声音だ。相手が断っても承諾するまで引き下がることはなさそうだ。
「ええ、どうぞ」
 田之倉は快く応じた。
 小乃子が入っていくので、仕方なく私も続いた。
 中は至る所に埃が積もり汚かったが、左右の窓には色とりどりのステンドグラスがはまっていて壮麗だ。
 正面奥には十字架がかけられていて、中央通路の左右には長椅子が数組並んでいた。十字架を背にした、説教を行うための講壇は長椅子のある床より二段ほど高かった。
「すごい。綺麗ー」
 小乃子ははしゃいでいた。目が輝いていた。埃っぽいのは気にならないようだ。美しいものにしか目が行かない、そんな性格のようだ。
 気をよくしたのか田之倉はペラペラと話し始める。
「そうでしょ、綺麗でしょ? でも天国っていうのはもっとすばらしいところなんですよ。人間は完璧じゃない。でも神様は完璧。もっと美しいものがたくさんあるんです。私もここの牧師をやっていて、天国はどんなところかって聞かれることがよくあるんですが、このステンドグラスの何百倍も美しいところなんですって説明するんです。神の教えを説くのにも役立ってますよ」
「そうですよね。こんなの見てたら私もキリスト教に改宗したくなっちゃうな。他にも見所はあるんですか?」
 小乃子はほんとにおめでたい性格をしている。しばらく付き合ってやっても良かったが、もう一人の茶番に付き合う義理はなかった。
「あなたはここの牧師で間違いないですか?」
 小乃子が楽しそうに田之倉と話しているところに私は割って入った。
 強引だなあ、と自分の事を棚に上げて小乃子は言った。
 一瞬田之倉は何を問われているかわからないという顔をしたが、すぐに落ち着きを取り戻し質問に答えた。
「もちろん。私はここの牧師の田之倉です」
「神に誓って?」
「はい、神に誓って」
 その答えを聞いた上で、私は田之倉の腹に正拳突きを入れた。
 あっけなく田之倉はその場に昏倒した。
 倒れた田之倉を二度見した小乃子は私に向かって叫んだ。
「な、何するの、なっちゃん? 牧師さん倒れちゃったよっ?」
なっちゃん?」
「小夏だから、なっちゃん
「えー、そうなの?」
「そんなことよりっ、いきなり殴ってどうしたの?」
「ここはカトリックの教会で、いるべきは神父。なのにこの人、自分は牧師だって嘘をついた。牧師はプロテスタントだから」
「どういうこと?」
「要するに、この人、ここの人間じゃなくて、田之倉神父の名前を騙った偽者ってこと。最初、あなたが田之倉牧師って決めつけたから、それで通してたけど、新しく派遣された牧師だって言うつもりだったはずよ。田之倉さん、名物神父だっていうからには、顔は知られてただろうし、まともな人間ならそうするね。あまりにも佐藤さんの圧がすごかったから作戦を変更して田之倉牧師で通すことにしたんだと思う」
「そ、そうなの? でもなんでここがカトリックの教会だってわかるの? プロテスタントの教会かもよ?」
プロテスタントカトリックの教会にはいろいろと違ってるの。あまり私も詳しいわけじゃないけど、気づいたことを言うね。
 教会の敷地内にマリア像と聖人の像があった。プロテスタントでは偶像崇拝を禁止してるからそんなものがあるはずがない。そして、プロテスタントは質素を尊ぶ。こんな派手なステンドグラスが窓にはまってるはずがないんだよね」
 私は窓のステンドグラスを指さして言った。
 綺麗だけどなー、と小乃子はつぶやく。
「あと、プロテスタントは牧師と信者は対等の立場ということになってるから、講壇と信者席の距離はもっと近いと思う。プロテスタントの教会に行ったことないからなんとも言えないけどね」
「でもなんでこの人、田之倉牧師のふりなんてしてたんだろ?」
「たぶん、神父服を着ていたことからすると、居座るつもりだったんじゃないのかな。ただの物盗りだったらわざわざ着ないでしょ」
「……なるほど。本物の田之倉牧師、じゃなかった、田之倉神父は?」
「死体になったにしろ失踪したにしろ、もう私の出る幕じゃないかな」
 私はスカートのポケットからスマホを取り出した。
「でも、もしよ? たまたま居合わせた牧師の人で、優しさから私に話を合わせてくれてただけだったら?」
「その可能性も考えた。その上で、神に誓ってあなたは田之倉牧師かって聞いたのよ。それでももし嘘を突き通すようだったら、本物だったとしてもろくな神父じゃない。一発ぐらい殴っても神様が許してくれるでしょ」
「すごいすごい! なっちゃんすごいよ! 私、感動した!」
 小乃子の賞賛に、はいはい、と応じながら私は警察への通報を済ませた。

 

 名探偵コナツ 第2話 
 江戸川乱歩類別トリック集成②
 (A)一人二役
 (1)犯人が被害者に化ける
 【甲】犯行前に化けるもの
 【ロ】人間入れ替わりのトリック。

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第2話は没になりました

昨日、名探偵コナツの第2話を書き終えたのだが、トリックの解釈を間違えていることに推敲の時点で気づいた。よって、没にした。なので、今週の記事はこれになります。第2話を楽しみにしていた人には申し訳ないです。