鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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占いの証明

 よく当たると評判の女占い師がいた。
 曰く、
「手相を見てもらったんだけど、俺が病気になるって予言しやがってさ。冗談じゃないって思って信じてもいなかったんだけど、占ってもらった翌週になって風邪引いちゃったんだよ。しかも四十度の高熱……」
 曰く、
「タロットカードで占ってもらったんだけど、真剣な顔でじっとカードを見つめてね。彼氏ができますよって。私の職場知ってたよね? 女ばっかりのとこ。だから、嘘だって思ったんだけど、店長が新しい人雇ってさ。それがいい男なんだ。今付き合ってるの」
 曰く、
「顔相ってやつ? 俺を一目見るなり、王者の顔だって。この前まで俺フリーターだったんだぜ? それが今じゃ、社長だぜ? 信じられるか?」
 とにかく、あらゆる占いに通じていて、それがことごとく当たるらしいのだ。
 だが、芳樹は気になる意見も聞いた。
「なんか説得力があるから、つい信じちゃうんだよね。病気になるっていわれた翌日に熱が出ちゃったんだけど、ほら、あたしって暗示にかかりやすい人じゃん? だからそのせいかなーとも思うのよ」
 他の人にも聞いてみると、そういう意見は少なくなかった。
 芳樹は元々占いなど信じない人間なので、占い師がちやほやされているだけで憤りを覚えたし、それによって傷ついた人たちの話を聞くと、義憤に駆られた。
 そもそも占いなんてものが、公然と行われていること自体が許せなかった。
 ――占いなんて当たらないことを俺が証明してやる!
 友人たちを引き連れると、芳樹は意気込んで、占いの館に乗り込んだ。
 占い師はそれっぽい格好をしていたが、ただのこけおどしだと思った。
「俺を占ってくれ」
「手相を見せてください」
 占い師は厳かに口にした。芳樹は手を出す。占いが始まる。
「これからあなたはひどい人生を歩んでいくことでしょう。ただし、この三万円の水晶を常に身につけていれば、災厄を免れ、幸せな人生を送れます」
 芳樹は水晶を言われたとおり購入すると、左手に握り込んだ。
「これを持っていれば、俺は順調な人生を歩んでいくんだったよな?」
 占い師はうなずく。芳樹はおもむろにポケットから拳銃を取り出す。口の中に銃口を突っ込んで、引き金を引いた。
 友人たちが止める間もなかった。占い師は止めようともしなかった。
「死んじゃった……」
 信じられないといった様子で、友人の一人がつぶやいた。
「嘘つき!」
「このペテン師!」
「何が幸せな人生だ!」
 友人たちの罵倒の中、占い師は死体に近づいていき、その前に屈んだ。
「この人は悪魔に乗っ取られようとした自分を守るために、あえて死を選んだのです。悪魔に乗っ取られることもなく、幸せな一生を終えたのです」
 あまりに堂々とした物言いに、友人たちは黙ってしまった。
 占い師は最後に、こう付け加えた。
「ほら、見てください。この安らかな寝顔を……」
 友人たちは今度こそ言葉を失った。芳樹の顔は、見るも無惨なものだったから。
 占い師が必死に目を細めている。そう、彼女は超近眼だったのだ。
 きっと手相も顔相もタロットカードもまともに見えていなかったにちがいない。

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