鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第23話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(23)

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 被害者は心不全によって亡くなった。
 就寝中、ベッドの中での出来事だ。
 被害者は心臓が弱かった。普通なら病死で片づく話だが、生前命を狙われているとうわごとのように言っていたとの証言があったため、警察が現場検証をすることになった。  神津刑事に呼ばれて私も同行した。
 寝室、警察はすでに遺体を運び出していたが、それ以外は死体発見時そのままだということだ。
 現場を見るなり、
「殺しの可能性はある」
 と私は言った。
「どうして?」
 神津刑事は不思議そうに聞いた。
「布団が綺麗に半分めくれ上がってる」
「だから?」
「上半身を一度起こしたからだと思う。もし心臓発作によって苦しんだなら布団はもっと乱れただろうし、苦しまなかったとすると布団は持ち上がっていないはず。被害者は上半身を持ち上げた後、発作に襲われた」
「ただ単に目を覚まして上半身を持ち上げたときに発作に襲われたのかもしれない」
「その可能性もある。でも、上半身を持ち上げたとき何か驚くべきことがあって発作を
起こしたのかもしれないし、何かに驚いて上半身を起こしたとき発作を起こしたのかもしれない」
「寝室だぞ? 何に驚いたっていうんだ? 恐い夢でも見たのか?」
「あるいは、恐いものを見た」
「例えば殺人鬼とか?」
「命を狙われてるって生前から口にしていたなら、殺人鬼を見たら殺人鬼が手を下す前に心臓発作を起こしても不思議じゃない」
 一階に下りて居間に行くと、被害者の息子二人がいた。二人とも三十は過ぎているが、実家暮らしだ。
 長男の拓実と次男の省吾だ。
「お二人の部屋を見せてもらいたいんだけど、いいですか?」
 神津刑事が聞いた。
「嫌だっていってもどうせ見るんでしょ?」
「……まあ、そうです」
 神津刑事と私がそれぞれの部屋に向かうとき、二人ともついてきた。
 まずは長男、拓実の部屋だ。
 まさに殺人事件の容疑者の部屋といった様相だった。
 壁一面に、コンバットナイフやモデルガンが飾ってあり、クローゼットの中には軍服がぎっしりと詰まり、ガスマスクも数点あった。サバイバルゲームもやるのか、BB弾の入った袋も置かれていた。
「もし、ここのナイフでも銃でも枕元に持って立っていたら、お父さんがびっくりして心臓発作を起こしてもおかしくないですね」
 神津刑事はきりっとした顔で拓実を見た。
「待ってください。僕にはアリバイがありますよ。死亡推定時刻は午前一時から午前五時でしょ? 僕と省吾は共通の友人の家にいて朝まで麻雀をやってたんです」
「ええ、確認は取れてます」
「なら、言わないでください」
 拓実がきつめに言ったので、神津刑事はしょんぼりしてしまった。
「これ、最近着たの?」
 私はクローゼットの一番左側に入っていた軍服を手に取って見せた。
「え?」
「これ、袖のところが両方とも破けてる」
「あ、ああ、サバゲーの時腕の太い友人に貸したせいで」
 拓実は口をもごもごさせながら言った。
 次は次男、省吾の部屋だった。
 ドアを開けると埃が舞い、神津刑事がむせた。
 こちらの部屋も趣味に溢れていた。部屋の中央にはベッドがあり、それを取り囲むようにして壁一面にガラスケースが並べてあった。
 中身はガンプラだ。ざっと見ただけで、五百体はあるだろう。その中で特に目立っていたのはドアを開けてすぐ左手に置かれた人型サイズのガンダムだ。
 大人の男と同程度の背丈がある。
 趣味だねえ、と神津刑事はつぶやいたが、呆れというよりは憧れが表情から覗えた。男というのはそういうものなのだろう、と私は勝手に納得した。
「お兄さんと違って弟さんの方はあまりきれい好きではないみたい」
「え?」
「部屋一面埃だらけ」
「ガラスケースに守られてるからプラモは無事だよ」
 私はプラモのことなど心配していなかったが、省吾は勝ち誇ったような言い方だ。
「この大きなガンダムは埃だらけよ」
「それは、確かに問題だ」
 省吾は、痛いところを突かれた、という顔をした。もちろんガンダムの状態など私にとってはどうでもいいことだった。
「だから、犯行がばれる」
「え?」
ガンダムの足形と埃の積もった位置が一致しない。埃の積もっていない部分が見えてるのは最近動かしてからまた元に戻したから。どこに動かしたのか? 被害者の寝室。被害者が寝付いた頃を見計らって運び込んだ。そうしておいてから自分はアリバイを作るために友人宅に遊びに行った。夜中目が覚めて等身大ガンダムが立っていたらさぞびっくりしたでしょうね」
「そ、そんなのただの推測じゃないか」
「事実を推測によって当てたの。あなたも人ごとじゃないよ」
 私は拓実を振り返った。
「え?」
ガンダムに軍服を着せた」
「そ、そんな滑稽な」
「軍服だけじゃなく、ガスマスクをつければまるで人間が立っているように見える。寝起きの人間なら特に誤認する可能性が高い。それに、共犯関係を成立させるために軍服とガンダムのコラボは必要だった。互いに裏切らないようにするためにね」
 拓実と省吾は互いに目を見合わせ、同じタイミングでうつむいてしまった。
「どういうことだ?」
 神津刑事はガラスケース内のモビルスーツに目を奪われていたせいか、私の話をほとんど聞いていなかったようだ。
「要約すると、ガンダムが犯人だった」
ガンダムはそんなことしない!」
 神津刑事は珍しく強い口調で言った。
 私は少し気圧された。すぐに反論しようと思ったが、確かに神津刑事の主張は正論だった。
 ガンダムは、モビルスーツは悪くない。悪いのは常にそれを利用する人間なのだ。

 

 名探偵コナツ 第23話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成(23)
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (8)人形が犯人