悲鳴を聞いて数秒後、私と神津刑事はその部屋に突入した。
アパートの一室だ。
ワンルームの中央には女の死体が横たわっていた。関根真理子。
その傍らに男が立っていた。
日渡努。
日渡からストーカー被害を受けていると、真理子は警察にかねてより訴えていた。
今日、日渡が家に押し入ってきたと通報があり、私達はやってきた。現場の一番近くにいたからだ。別の事件を解決した直後のことだった。
床には血のついたハンカチが落ちていたものの、凶器らしきものは見当たらなかった。 神津刑事が銃を突きつけているため、日渡はおとなしくしていた。
奇妙な部屋だ。
ワンルームにもかかわらず、あらゆる家具家電が巨大だった。
壁一面を占めている大型テレビ、十人家族の胃袋を支えられそうな大型冷蔵庫、同じく洗濯機も巨大だ。
テレビはともかく、他の二台は一人暮らしには不似合いだ。
テーブルも大きく、椅子も木製で背もたれと肘掛けがついたものが四脚。
台座のついた大きな振り子時計は、『大きな古時計』という童謡に出てきそうなアンティークな代物だ。
そして、ストーカーの日渡も大きかった。身長は二メートル近くあって、体重は百五十キロといったところか。神津刑事の拳銃が心許なく見えた。
真理子はとにかく大きいものが好きだったようだ。
「おとなしくしていろ、日渡。殺人容疑で逮捕する」
「おいおい。どこに凶器があるって言うんだ? 犯人は真理子をナイフで刺して部屋から出ていったよ。俺はやってない。ただの目撃者だ」
神津刑事は部屋中を捜したが、凶器を見つけることはできなかった。
情け無い顔で私を見る。
できれば神津刑事自身の力で見つけてもらいたかったが、仕方ない。いつもどおり協力することにした。
「神津刑事、その時計のカバー、外して」
「カバー?」
とぼけた声の神津刑事。
顔を青くする日渡。
もう事件は解決したも同然だった。
「その分針取ってみて。ちゃんと手袋してね」
「これか?」
神津刑事は分針を取り外した。巨大で、包丁並のサイズがあり、その先端は鋭く尖っていた。
「それが凶器よ。ルミノール液で調べれば血液反応があるはずよ」
くそお、と言って日渡は大げさにその場に膝をついた。どすん、と大きな音がした。すぐにその場に大の字になって寝転がり体を揺すりながら、くそおくそお、と何度も叫んだ。 体だけでなく、犯行がばれた際のリアクションも大きかった。
名探偵コナツ 第50話
江戸川乱歩類別トリック集成(50)
【第四】兇器と毒物に関するトリック
(A)兇器のトリック
(1)異様な刃物