鬼熊俊多ミステリ研究所

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 名探偵コナツ 第37話  江戸川乱歩類別トリック集成(37)

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 私と神津刑事は部屋の前に立っていた。ドアには回らない取っ手としてのノブがついていて、中からは閂をかけられるようになっている。
「くそ。中から返事がないぞ」
 そこから神津刑事の行動は早かった。肩からドアに体当たりしたのだ。ドアは開きその勢いで部屋の中に倒れ込んだ。
 部屋の中央に人が横たわっていた。立花陽子だ。
 掛け金を受ける受け金は壁に付いたままだったが、掛け金は外れて床に落ちていた。ドアにも壁にも閂にも細工がされた跡はなかった。その造りは私の部屋のものと同じだ。
「密室殺人だな」
 神津刑事が言った。
 関係者を集めた。実はここは佐藤由乃の知人、立花陽子の所有する別荘だった。その別荘は孤島にあり、他に民家はなく、外界とは音信不通になっていた。迎えの船が来るのは一週間後だ。
 私、神津刑事、佐藤由乃、石橋貴文、稲垣太郎、亡くなった立花陽子の五人が島にいるすべての人間だ。
 神津刑事は、立花陽子が亡くなったことを告げた。
「彼女は毒を飲んで死んでいた。臭いからして恐らく青酸カリだ」
「じゃあ自殺だろ? 鍵がかかってたんだから」
 稲垣が言った。
「簡単なトリックよ」
「嘘つけ」
「私の部屋で証明する。ついてきて」
 全員、私の部屋の前にやってきた。
「すべての部屋は同じ造りになっている。鍵の仕組みも同じ。ドア内側についた掛け金を持ち上げて、その先端を壁側の受け金にはめる。簡単な仕組みだけど、ドアと壁に隙間がないし、外から開けることはできない」
「だったらやっぱり自殺だ」
「だけどトリックを使えば、外から鍵をかけることが可能になる」
 私は閂にある細工をした後、廊下に出てゆっくりとドアを閉めた。固定式のノブを掴み、ドアを強めに叩いた。
「開けてみて」
 私は神津刑事に言った。
 神津刑事が開けようとするが、開かない。鍵がかかったからだ。
「そんなバカな」
 石橋もノブを掴んでドアを開けようとしたが結果は同じだ。石橋が不思議そうに私を見た。
「どうなってるんだ? さっきドアを叩いたので鍵がかかったって言うのか?」
 私は隣の由乃の部屋に移動した。
 ドアを開けて、掛け金を持ち上げてみせた。それから掛け金を固定している部分の釘を強く押し込んだ。すると、掛け金は上がったままだ。
「この状態でドアを閉めて強く叩けば、さっきのように掛け金が落ちて鍵がかかる」
 私がドアを叩くと、皆の目の前で掛け金が落ちた。
「それと、犯人は稲垣さん」
「なんでだっ?」
「私も神津刑事も立花さんの部屋が密室だなんて言わなかった。それなのにあなたは密室だったから自殺だと言った。あの時点で密室とわかっていたのは犯人だけよ」
 稲垣は悔しそうに顔を歪めた。

 

 名探偵コナツ 第37話
 江戸川乱歩類別トリック集成(37)
 【第二】犯人が現場に出入りした痕跡についてのトリック
 (A)密室トリック
 (2)犯行時、犯人が室内にいたもの
 【イ】ドアのメカニズム。犯人が犯行後室外に出て、ドアの内側から鍵穴に差し込んでおいた鍵を、外から廻すメカニズム。又、外から内側の閂をしめたり、掛け金をおろしたりするメカニズム。