鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

MENU

 名探偵コナツ 第36話  江戸川乱歩類別トリック集成(36)

f:id:onikuma39:20210424173347j:plain



 現場はアパートのワンルームだった。
 四階。
 ドアの鍵は閉まっていて、鍵は普段使い、スペアともに部屋にあった。
 窓は人通りの多い道路に面していて、死亡推定時刻にアパート前で井戸端会議をしていた人たちの話によると、その窓から人の出入りはなかった。
 被害者は女子大生で、十九歳。
 死因は絞殺だが、まだ詳しいことはわかっていない。
「タオルが落ちてるな」
 神津刑事はタオルを拾うと、何かを思いついた顔になった。
「これで首を絞めた後、犯人は現場を密室にして逃げたわけか。とても自殺には見えないのに密室にするなんて、きっと犯人はバカな奴だな」
 何でも思いつきで発言するのが神津刑事の悪い癖だ。
 私はそのタオルを見せてもらった。綺麗だ。首を絞める際犯人は相当力を入れたはずだから、少しぐらいちぎれていてもおかしくなさそうだが、湿っているだけでそれまで正当に日用品としての扱いを受けていたように思われた。
 それに床に転がってたのはタオルだけではなかった。まな板や包丁、ボウル、皿、マグカップなども床に落ちていた。割れるものは割れ、そうでないものはそうでないものなりに痛んでいた。
 私は推測を口にした。
「犯人に抵抗するとき投げたんだろうね。タオルもその一つかな」
「タオルなんて当たっても大したことないだろ?」
「それだけ恐かったし慌ててたんでしょ」
「まあ、突然襲われたりしたら、そうか。そうだな……」
 私はしゃがむと、シンク下の扉を開けた。
 米びつの横にハムスターの入った籠があった。中のハムスターは生きていた。普通はこんなところに入れておかない。
 私は立ち上がった。
「ここ最近、ペットが逃げたって報告なかったか調べて」
「なんだ? 被害者はそのハムスターをどこからか盗んできたって言いたいのか? それで持ち主に復讐されて――」
 私はじっと神津刑事を見詰めた。
「あ、そういえば体長三メートルのニシキヘビが逃げたって。まさか――」
「そのまさかよ。動物の捕獲は私の得意分野じゃないから、後は神津刑事に任せるよ。がんばって」
 玄関のドアを開けると、強い風が顔に吹きつけた。ゆっくりとドアを閉めると、髪をなでつけてから通路を歩いた。

 

 名探偵コナツ 第36話
 江戸川乱歩類別トリック集成(36)
 【第二】犯人が現場に出入りした痕跡についてのトリック
 (A)密室トリック
 (1)犯行時、犯人が室内にいなかったもの
 【ヘ】人間以外の犯人。