鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第40話  江戸川乱歩類別トリック集成(40)



 物が壊れる音を聞いて、B室、稲垣吾郎の部屋に私たちは向かった。
 鍵を使って内開きの扉を開けると、ベッドの上に死体があった。ナイフによって首を切られたのだが死因だ。首がぱっくりと割れているので偽装死でないことは一目でわかった。 私と神津刑事、由乃の三人が中に入った。ベッド横では目覚まし時計が砕け散っていた。これが物音の原因だったようだ。わざと地面に叩きつけたかのような壊れ方だった。プラススチックの破片が床に散らばっていた。
 二人をその場に残し、私は操舵室に向かった。
 船長の下山猛を殺人未遂で拘束し、A室に他の殺人犯と共に監禁していたため、今は助手の相田誠が操舵していた。
 扉に鍵がかかっていたのでノックした。
 扉が開き、相田が顔を出し、私を中に招き入れた。
 再び扉は閉まった。
「さっき稲垣さんが殺されていた。心当たりある?」
「ないですね。一体誰が?」
「あなたが立花陽子への忠誠心から殺した」
「まさか。私は雇われてまだ一年ですよ」
「それか、船長の下山への忠誠心から殺した」
「下山さんとの付き合いも一年です」
「じゃあ立花さんのことが隙だったから。すごい綺麗な人だった」
「殺したとして、どうやって? 言ってはなんですけど、私はずっと操舵していましたよ。自由に動けたのはあなたのお仲間だけです。身内を疑いたくないからと言って、私を疑うのは筋違いです」
 なかなか言う、と私は思った。
「操舵室は鍵がかかる。だから私たちは中に入ることができなかった。つまり、あなたが常に操舵しているかどうかは確認できなかった。少しぐらい離れても自動操舵システムがあるから問題はないでしょ?」
「私がこの場を離れたというのはあくまであなたの想像だ。もちろんトイレのために席は立ったりしましたが、それだけです」
「どうかな?」
「それにどうせ密室だったんでしょ? 鍵は持ってませんよ。本当に。何なら身体検査でもしますか?」
「しなくても大丈夫。そのことは疑ってない。それにトリックはわかってる」
「トリックなんて……」
「あなたはB室で目覚まし時計を壊し大きな音を立てて私たちを呼び込んだ。それは部屋のドアを開けさせるためだった。そのときあなたはドアの内側に身を潜めていた。そして、私たち三人が中に入るとばれないように外に出たのよ」
「できたというだけでやった証拠がない」
「ある」
「はったりだ」
「私たち三人には動機がなく、あなたにはある」
「状況証拠じゃないか」
「私たち三人は一緒にいて、目覚まし時計を壊せたのは被害者か犯人だけだった。あれが自殺ではない以上、犯人はあなたよ」
「やっぱり状況証拠だ」
「靴の裏を見せて」
「は?」
「あなたは音を立てる際、目覚まし時計を地面に叩きつけた。その破片が靴裏の溝に入ってるかもしれない。犯行後、あの部屋に入っていないはずのあなたの靴裏に挟まっていたら、犯行時あなたは現場にいたことになる」
「そんな都合良く挟まってるはずがない」
「すべて拾い集めたけど足りないところがあった」
「くそ」
 相田が殴りかかってきたので、私は殴り返した。相田が地面に倒れた直後、激しい衝撃が船全体を襲った。座礁したのだ。

 

 名探偵コナツ 第40話
 江戸川乱歩類別トリック集成(40)
 【第二】犯人が現場に出入りした痕跡についてのトリック
 (A)密室トリック
 (2)犯行時、犯人が室内にいたもの
 【二】犯罪発見者たちがドアを開いて闖入した際、犯人はドアの後ろに身を隠し、人々が被害者の方に駆け寄る隙に逃げ出すという簡単な方法ある。