鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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「奴が逃げられたはずがないんだ!」
 神津刑事が叫んだ。
 私たちの目の前にある小屋は半ば焼け落ちていて、小窓のある壁だけが残っていた。農家を営んでいる人の所有で、強盗犯が逃げ込んだ末路だった。
「表のドアは神津刑事が見張っていたから、この小屋の小窓から出たのは間違いないんでしょ?」
「ウエスト82センチの俺が出られないんだ。奴が出られるはずがない。それなのにいなくなったんだ!」
 神津刑事の差し出したスマートフォンに映る犯人の画像を私は見た。追跡中に神津刑事が撮ったものだ。
 帽子と眼鏡で人相はよくわからないが、確かに犯人は太っていた。ウエストは百センチでは足りないだろう。
「中にいるってわかってるならさっさと取り押さえれば良かったのに」
「銃を持っていたんだ。だから応援を待ってた」
「なんで裏の小窓を見張らなかったの?」
「追跡中に相棒の朝田が途中で転んで骨折したせいで俺の単独になってしまった。奴が立てこもってから、一応裏手を回って小窓があることは確認したが、さっきも言ったとおり奴のあの体型であそこから出られるはずがないんだ。それに中から出てきた煙のせいで視界も悪かった」
 私は例の小窓に近寄ると、枠に手をかけて体を持ち上げ外に出た。人が出るのは不可能ではないが、体の大きな男には難しいだろう。
「煙になって出ていったとしか思えない。しかも周囲を封鎖して検問をしているが、全然見つからない。周辺でも多くの警官が聞き込みをしてるっていうのに、奴は煙か?」
 神津刑事は苛立ちを隠さなかった。
「何を燃やしたかわかる?」
「中にあった藁とか農具とかだろ?」
「服よ」
「どういう意味だ? 犯人は今裸なのか?」
「犯人は服を何枚も着込んで体型を誤魔化していた。だから余分な服を脱げばスリムになって、小窓から出ることもできた。しかも手配されるとき太った男扱いだから警察の捜査から逃れやすくて犯人にとっては一石二鳥よ」
「なんでそんなことがわかる?」
 神津刑事から借りていたスマートフォンの画像を見せながら、
「この体型で顎がまったくたるんでない」
 と私は指摘した。

 

 名探偵コナツ 第43話
 江戸川乱歩類別トリック集成(43)
 【第二】犯人が現場に出入りした痕跡についてのトリック
 (A)密室トリック
 (4)密室脱出トリック