鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第57話  江戸川乱歩類別トリック集成(57)

 その少年は海水パンツと水泳帽を身につけた格好で亡くなり、少年が通う高校のプール上をうつぶせで漂っていた。
 解剖の結果、溺死と判明したが、体内からはプールの水ではなく川の水が発見された。「ここから一番近い川でも一キロはあるぞ。なんで犯人はわざわざ死体を川からここに運んだんだ? 普通に考えれば、川遊びをしていて被害者は亡くなったってことになるが――」
 神津刑事はそこで思考に行き詰まり、助けを求めるように私を見た。
 私は溜息をつき、神津刑事の思考を引き継いだ。
「川遊びをして亡くなった。そう思われると困る人が川ではなくプールで被害者が亡くなったように見せかけたかった。考えられる理由としては、自分の責任で亡くなったからその責任を回避したかった。まず第一に、水遊びを監督していた大人が容疑者として上がる」「被害者の両親は息子が川に行くこともプールに行くことも聞いていないと証言した。どちらか、あるいは両方とも嘘をついてるってことか? 夫あるいは妻に子供の死の責任を追及されたくなくて? それか別の大人か?」
「どうかな」
「もっと詳しく事情聴取しないとな。もしプールで溺死したなら、学校のプールは体育の時じゃなければ水泳部以外使用禁止だったし、被害者は水泳部じゃなかったから、忍び込んだ本人が悪いってことで誰の責任問題にもならなかったんだが」
「一緒に川遊びをしていた友達が、被害者が亡くなってその罪悪感で川遊びしていたことを隠したかったっていう可能性もある」
「死体を移動させるのは罪なんだがな。もしかしてその友達とやらが何らかのいたずらをしてその結果亡くなったとか?」
「外傷はないみたいだし、目撃者が事故って言えば事故で済む話よね」
「そうだな。だが罪悪感っていうのは厄介だからな」
「一キロも死体を運ぶのは骨が折れる。もし子供の仕業なら親が車を出したかもね」
「なるほど。じゃあ、聞き込みをして周辺にある川での目撃情報を――」
「と、普通の人は考える」
「え?」
「でも、これは単純なトリックよ」
「どういうことだ?」
「犯人は川の水をペットボトルにでも入れて、ここまで持ってきた。その水を洗面器にでも入れて被害者を溺死させた。そうすれば、解剖の結果、ここが犯行現場とは思われない」「なるほど……」
「死亡推定時刻にこの学校周辺にいた人間を中心に聞き込みを行って。被害者が川で遊ぶと言っていたと証言している人間を中心に調べて。その噂の発信元を辿っていけば犯人に行き着くから。殺人犯にね」
「殺人犯って……。事故って可能性もまだあるだろ?」
「被害者はほとんど坊主に近い短髪。それなのに水泳帽をしてた」
「それが?」
「普通、川で泳ぐ場合水泳帽はしないでしょ?」
「あ――」
「犯人が偽装する際、やりすぎたのよ」

 

 名探偵コナツ 第57話
 江戸川乱歩類別トリック集成(57)
 【第四】兇器と毒物に関するトリック
 (A)兇器のトリック
 (8)溺死