「なんでこんなことに・・・・・・?」
私はハンカチで口元を押さえながら窓に向かった。
あの窓を開ければ生き残る可能性はあった。
だが、窓にたどり着く前に私は床に膝をつき、その場に倒れた。息苦しさと吐き気で限界だった。
生きることを諦めるわけにはいかない。
私はかろうじて顔を上げると、異臭の発生源であるキッチンの方を見た。
そちらにいた佐藤由乃が私を見下ろしていた。手には包丁を持っていて、かすかに笑っているように見えた。
私は自分の意識が薄れていくのを感じた。
目を覚ますと、私はベッドにいた。
「はい、これ食べて」
由乃が差し出してきた皿には黒く焦げた物体が載っていた。
あの臭いがして、思わず私は鼻をつまんだ。
私の意識を奪ったあの臭いだ!
「食べて」
「絶対に嫌」
私はベッドから降りて、由乃から、その物体から距離を取った。体調は万全ではなく頭の働きも鈍かったせいで、私は壁を背にしてしまった。
ドア側に由乃はいた。この部屋から出るためには由乃の横を通らなければならないが、それはあの臭いの元に近づくということだ。絶望的な気分に襲われる。
「ただ料理してだけなのにどうしたらあんな猛毒が発生させられるの? しかもなぜあなたは平気なの?」
ん? と由乃が小首をかしげる様に腹が立った。
私は気づいた。
ドアからは遠いが窓からは近い。
私は窓を開けると、窓枠に手をかけて外に飛び出した。
「ちょ、なっちゃん。ここ二階!」
知っていた。
私は屋根に着地、そこから雨樋をつかむと、地面に着地した。
そのまま家まで走った。
一時間後、家のチャイムが鳴り玄関に向かうと、例の物体をタッパーに詰めた由乃が立っていた。
名探偵コナツ 第62話
江戸川乱歩類別トリック集成(62)
【第四】兇器と毒物に関するトリック
(B)毒殺トリック
(3)吸入毒