由乃は険しい顔で私に確認を始めた。
「犯人は全員、手足を縛ってそれぞれの船室に閉じこめてあるよね?」
「そうね。下山さんは縛られてないけど」
相田誠が殺人を犯したため、今は殺人未遂犯の下山猛の縄を解き、大型クルーザーの操舵を任せていた。常時、神津刑事による監視付きだ。
「だけど、私はやってないよ」
「私もやってないんだよ」
私が言うと、由乃はかぶせるようにして言った。普段は元気いっぱいで人を振り回すきらいのある由乃だが、それ以上に温厚だ。にもかかわらず、今回はいつになく攻撃的だった。
「なっちゃんがやってないとなると、おかしなことになるんだよ。この船に乗ってる殺人犯はみんな手足を縛られていて、被害者の人はみんな死んでいる。殺人未遂犯は刑事の神津さんがちゃんと見張ってくれてる。そして、ここはクルーザーの中で、海の上だよ。誰も入ってくることなんてできない」
「そうね」
「つまり、この事件の容疑者は私となっちゃんしか考えられないの」
私は黙っていた。
由乃は喋れば喋るほど熱くなった。
「私はやってないよ」
「…………」
「だから犯人はなっちゃん、あなたよ」
「…………」
「なっちゃんが食べたんだよね、この皿の上にあったケーキを?」
由乃はラウンジの隅に設置された冷蔵庫の扉を開けた。一番上の段に何も載っていない皿が置かれていた。そこについ三時間ほど前までショートケーキが載っていたのを私も記憶していた。
ドアが開き、神津刑事と下山がラウンジに入ってきた。
神津刑事は由乃と私に目をやった後、冷蔵庫を見た。
「そこにあったケーキ、おいしかったけどもうないのか?」
神津刑事は下山に聞いた。
「ここは船の上なんだからあるわけないでしょ!」
下山が答える前に、由乃が大声で叫んだ。
名探偵コナツ 第41話
江戸川乱歩類別トリック集成(41)
【第二】犯人が現場に出入りした痕跡についてのトリック
(A)密室トリック
(2)犯行時、犯人が室内にいたもの
【ホ】列車の密室。コンパートメント内、電気機関車内の殺人など、殊に列車進行中には、外部と隔離されるため、格好な密室となる。船室も同様な条件を備えている。