皮膚が焼けただれている顔のない死体が見つかった。
犯人はわざわざ被害者の死後に顔を焼いたというのに、そのポケットには免許証が入っていて、警察によって死体の身元はすぐに割れた。
二十代後半、コンサルティング会社勤めのイケメンだ。歯科のデータも死体のそれと一致した。
「犯人はなんのために顔を焼いたんだ? 顔を焼くって言ったら普通身元を隠すためだろ・・・・・・。免許証の存在に気づかなかったのか?」
神津刑事が顎に手を置いてうなった。
その隣で私は何度も何度もあくびをした。昨夜遅くまで海外の刑事ドラマを見ていたため寝不足なのだ。
私が五度目のあくびをすると、神津刑事は私をにらみつけた。
「なぜ顔を焼いたのか? 簡単なことよ。その顔を二度と見たくなかったから、かな」
いつもより頭の回転も遅くて、私は自分でも適当な推理を口にしたと自覚があった。
またあくびが出た。行儀が悪いことはわかっているが、脳が覚醒するには必要なプロセスなので我慢するつもりはない。
「死体だ。二度と会うことはないだろ?」
神津刑事にしては珍しくいい質問。
「じゃあ、死体の確認をすることになる身内の犯行ってことかな。警察から連絡が行くから。それなら相手がゾンビにならなくたってもう一度顔を見る必要が出てくる」
神津刑事は呆れ顔だ。
「ふざけるなよ。それは飛躍しすぎだろ。顔が気に入らなかったから焼いたとか安易すぎる」
「じゃあ、犯人は被害者に強いコンプレックスを持っていた。それ自体が殺害動機ならあり得ないことじゃないでしょ。写真見たけどすごく格好良かった」
もちろん少ない情報が元になっているあやふやな推論だ。妄想と言っても差し支えない。だから足を使って事件は調べなければならない。
被害者の両親はすでに亡くなっていて、遺族は弟夫婦だけだった。
その家を訪ねた。
玄関に出てきた弟は兄とは違いイケメンとは言いがたかった。
そして、夫より後にやってきた妻は神津刑事と夫のやりとりを見て数分後泣き出していた。義理の兄の死を悲しんでいるわけではないようだった。それもあるかもしれないが、それだけではない雰囲気があった。
私が妻を問い詰めようとすると、夫は妻を背にかばい、真相を話し始めた。
「あいつは妻と浮気していた。子供の頃から顔がい言ってだけであいつはなんでも俺の物をかっさらっていくんだ。だから殺した」
「奥さんのことは責めないんですか?」
私は寝不足のせいで余計なことを聞いた。だが口から出てしまった言葉を飲み込むことはできない。
「あいつが全部悪いんだ。あいつの顔が・・・・・・」
名探偵コナツ 第67話
江戸川乱歩類別トリック集成(67)
【第五】人及び物の隠し方トリック
(4)顔のない死体