「とある会社の重要機密の書類が盗まれた」
「内容は?」
「それは教えてもらってないんだ。とにかく重要らしい」
「犯人の目星は付いてるの?」
「ああ。そいつの家を任意で家宅捜索したんだが見つけられなかった。社内でデータをプリントアウトしている映像は押さえたんだが」
上記のやりとりをしたあと、私は件の容疑者の家を神津刑事の家を訪れた。
容疑者の男はふてぶてしかった。
「まったく! 散々探したくせに、今度はこんな小娘を連れてきやがって。嫌がらせにもほどがある。権力の横暴だ」
耳にはコードレスイヤホンをしていた。
殺風景な部屋だ。机と椅子、ベッド、カラーボックスが一つあるだけだ。
机の上には、ノートパソコンとスマホが置かれていた。両方とも起動していなかった。それでも男のイヤホンから音漏れがしていた。
「その書類ってどれくらいの量なの?」
「十枚くらいだ。さっきも言ったがプリントアウトしている映像が会社の監視カメラに映っていた」
私は男のポケットに手を突っ込んだ。
男は、あ、という顔になった。抵抗するような動きをしたけど、すでに私の手には目当てのものが握られていた。
携帯型のデジタルオーディオ機器、ウォークマンだ。なんでもスマホで済ませる昨今珍しいものだ。
少し男の顔に緊張が走った。
「この中身は調べたの?」
「ああ、俺が直々にな」
それが失敗の原因だ。ちゃんと鑑識の人に任せればここまでこじれることはなかった。任意だからそこまで本格的には調べられなかったのかもしれないが。
私は男を見た。
「プリントアウトしたものを後でカメラに撮って、USBメモリにデータとして保存したってところかな」
男は明らかに顔色を変えた。
でもまだ余裕がある。
「だがパソコンにもウォークマンにもスマホにもそういった画像データはなかった」
と神津刑事。
私はウォークマンをケーブルでパソコンに繋ぐと、しばらく操作した。やがて画面上に書類データが出てきた。
「どうして?」
と驚く神津刑事。
うなだれる容疑者の男。
「ウォークマンでも文章も映像も画像も保存できるよ。メモリはUSBと同じなんだから。ウォークマンの画面上で表示されるのは音楽データだけだけどね」
名探偵コナツ 第71話
江戸川乱歩類別トリック集成(71)
【第五】人及び物の隠し方トリック
(C)物の隠し方
(3)書類