体育終わり、教室に戻ってくると、五万円がなくなったと川田透が騒いでいた。
未だに現金派の人物なので現金を持ち歩いているのはおかしくなかったが、五万円というのは高校生が持ち歩くには額が大きかった。
「なんでそんな大金持ってきたの?」
「刈谷からPS6を買うためだよ」
「刈谷以外であなたが五万円持ってくるって知ってた人は?」
「刈谷だけだ。刈谷が他の人に言いふらしてなければ」
犯人の狙いが五万円だったとは限らない。
刈谷が現金派であることは皆が知っていた。少額でもいいから欲しいと思い財布を覗いたら今日に限ってたまたま五万円が入っていただけかもしれない。
私は廊下から教室に入ってきた刈谷に歩み寄った。上下ジャージだ。女子が女子更衣室から戻ってくるまでに男子は教室で着替え終わるのがルールだが、この後の授業をジャージで過ごすつもりだろうか。
「刈谷、川田が金をなくしたことについて心当たりはある?」
「俺を疑ってるのか?」
「一応、目につく人間全員を疑ってる」
「……さすが名探偵。疑うなら俺の体全部調べてもらおうか」
刈谷はジャージの上着のポケットを外に出して見せた。何も入っていない。ジャージのズボンのポケットも同じようにした。やはりは何も入っていない。
上着を脱ぐと床に投げ捨てた。ズボンも同じようにした。
Tシャツを脱いでパンツ一丁になる。
それも脱ごうしたので刈谷の左足にローキックを放った。
そのダメージで刈谷は床に膝を付いた。これ以上脱いだら攻撃が飛んでくると学習した刈谷は脱ぐのを諦めた。足が痛むのか膝はついたままだ。
刈谷の横にはジャージの上下とTシャツがこんもりと積み上がっていた。
念のため、パンツの下を大輝に探してもらったが五万円を見つけることはできなかった。尻にも挟んでいなかったらしい。
私は刈谷が地面に脱ぎ捨てた上着を拾い上げた。
刈谷は、あ、という顔になった。
よく調べると、ジャージは内側が二重になっていて、そこに一万円札が五枚入っていた。 刈谷はあっけにとられていた。
「なんでわかった?」
「最初に上着を脱いで、後からズボンを脱いだ」
「普通だろ?」
「そうね。だけど、無造作に脱いでいるような感じだったのに、最初に脱いだ上着をきれいに隠すようにズボンを投げ捨てた。そのとき上着の方に目が動いたのも不自然だった」「くそ。バレバレだったわけか」
刈谷は床を拳で叩くと、立ち上がった。まだ蹴られた左足が痛かったのか少しよろけたものの、そのまま歩いて川田の正面に立った。
「川田……」
「なんだよ?」
「PS6、壊れちゃった」
「じゃあ取引はなしだな」
「そんなー」
「そりゃそうだろ!」
私は五万円を川田に渡した。
名探偵コナツ 第70話
江戸川乱歩類別トリック集成(70)
【第五】人及び物の隠し方トリック
(C)物の隠し方
(2)金貨、金塊または紙幣