鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 飯島正樹がまた別の店で万引きをしたらしく、そこの店主も佐藤由乃に盗品の回収を依頼した。前回由乃が依頼を達成しその評判が上がったからだろう。
「この前は悪かったが、今回こそ孫は一緒にわしといたぞ。ちゃんとアリバイも証明できる」
「犯行があった時刻に正樹君と一緒にいたってことですね?」
 由乃は言った。
「そうだ。昼の十二時だろ? ちょうど家に帰ってきてな。一緒に昼食を食べたよ」
「うーん、じゃあ、正樹君に犯行は無理ですね」
「だから言ったろ。近所で悪ガキなんて言われているが根はいい子なんだ。わしも強く説教しすぎたせいかもしれない。それで意固地になってるんだよ。だが、わしはあの子の味方になるぞ!」
 由乃の弱気におじいさんが強気で返した。声が大きいのは耳が悪いせいもあるだろうが、孫への思いが胸の内で熱く燃えさかっているせいだ。
「あ、でも、なんかトリックを使って――」
「正樹はそんな悪いことはしないんだ!」
 あまりの大声に由乃が後ろに飛び退いた。
 代わりに私が一歩前に出た。
「今日は腕時計してないね。あの電波ソーラー時計お気に入りだったんでしょ?」
「ああ、家の中に置き忘れてな」
「いつもつけてるんじゃないの?」
「昨日、正樹が水浴びして濡れたままわしに抱きついてきたもんだから、一緒にシャワーを浴びたんだ。そのときに外した。まったくやんちゃで困るよ」
 おじいさんは嬉しそうに孫とのエピソードを語った。
「朝起きるときか夜寝る前、正樹は部屋の中の時計をすべて三十分から一時間遅らせておいた」
「そんな馬鹿なっ?」
「今日時間の感覚がおかしいと感じなかった?」
「それは……テレビが見られなかったからわからなかったんだが、少し変な感じがした。いつもより早く目が覚めて……」
「テレビは正樹が見れないようにしたんでしょ」
「濡れ衣だ」
「部屋の中の時計は遅れている。だからおじいさんとおばあさんは正樹が十二時に帰ってきたように思っているけど、実際は一時頃だったかもしれない。だから万引きを目撃された時刻、正樹はこの家にいたことになる」
「わ、わしの腕時計は電波時計だ! 遅れることはあり得ない!」
「針を手動で戻せばいいだけのことよ」
「自動修正されるだろ?」
「電波の自動受信は、日に数回。あなたが時刻を目にしたのは自動修正される前だったか、あるいは日本以外の地域の時刻を自動受信するように設定を変えてあった。例えば中国だったら日本より一時間遅れよ」
 私が説明すると、うう、と呻いておじいさんはその場に両膝をついた。
「正樹、正樹ー」
 おじいさんは悲痛な声を上げたが、立ち上がるとその顔を派憤怒に染まっていた。怯えた由乃が私にしがみついたが、私は動じていなかった。
「少し孫を叱ってくる」
「どうぞ」
 と私は答えた。

 


 名探偵コナツ 第47話
 江戸川乱歩類別トリック集成(47)
 【第三】犯人が現場に出入りした痕跡についてのトリック
 (B)時計による時間トリック