鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第46話  江戸川乱歩類別トリック集成(46)

 最近小学生の間で完全犯罪ブームでも起こっているのだろうか?
 私の目の前で、佐藤由乃が万引きを行ったと思われる小学三年生の男児――飯島正樹を問い詰めていた。
 目撃証言から有名な悪ガキである正樹が犯人だと見当をつけた由乃がその住所を調べ、こうして家にやってきたのだ。
 二階建ての一軒家だが、駐車場は広く、すでに一台軽自動車が停まっているにもかかわらず、後三台は停められそうだ。
 由乃と正樹は玄関前でやり合っていた。
「だから俺はやってないって!」
「あなたがやったって目撃証言があるんだよ」
「その店で万引きがあったのって午後四時だろ?」
「そうだよ」
「残念。俺、午後四時十分にはここにいたから」
 と正樹は言った。
「だからなに?」
「バカだなあ。十分じゃここには来れないってことだよ。チャリを全力でこいだって二十分はかかる」
「そうかあ……あ、誰かアリバイを証言できる人いる?」
「じいちゃんとばあちゃんがいるよ。二人とも耳が悪いけど、ちゃんと俺の姿を見てるはずだ」
「おじいさんとおばあさんは身内のあなたをかばうでしょ?」
 由乃は正樹におじいさんとおばあさんを呼んでもらった。また悪さしたのかとひたすら怒りかばう素振りはなかったが、正樹のアリバイはきっちりと証言した。
「時計の時間をずらされたりとかは?」
「ないよ。これは電波時計だからね」
 とおじいさんは腕時計を自慢げに見せた。肌身離さずつけているらしく、正樹がいたずらする機会はなさそうだ。
「じゃあタクシーだ」
 と由乃
「なら、タクシー会社に確かめろよ」
 正樹はバカにするように言った。その自信満々の態度からそんなことをしても無駄なのは明らかだった。
なっちゃん……」
 由乃が情け無い顔で私を見た。
 私は溜息をついてから、推理を披露した。
「正樹君はそこの軽自動車を使って店と家を移動した」
「小学生だよ?」
 と由乃
「オートマなら簡単に運転できるよ。視界は良好ではなかっただろうけど、運転できないほどじゃない。祖父母は耳が悪いから車の発進音とか聞こえなかったんでしょう。最近の車は静かだしね」
 私は正樹を見た。
 正樹が反論してくることはなかった。
 どうやら当たりのようだ。
 由乃が正樹に向き直った。
「そうなの、正樹君? やっぱり犯人なんじゃない。人のものを盗んじゃダメなんだからね」
「たかがガムひとつ盗んだぐらいで大げさなんだよっ!」
 正樹は開き直った。
 私は神津刑事を呼び出した。正樹は本職の刑事が来たことで目を輝かせ、素直に説教を聞いたどころか、将来は刑事になり万引き犯と戦うと言い出した。

 

 名探偵コナツ 第46話
 江戸川乱歩類別トリック集成(46)
 【第三】犯人が現場に出入りした痕跡についてのトリック
 (A)乗り物による時間トリック