『彼女たちはミステリーをぬぎ散らかす』
この作品、実は狙ってできたものではない。偶然の産物だ。創作なんてものは全部偶然の産物かもしれないが、ミスチラ(彼女たちはミステリーを脱ぎ散らかすの略式名称)に限っていえば、普段とは違う経緯で誕生した。
通常、あくまで俺の場合だが、元になるアイデアを思いついてから、キャラクターやストーリーを考えていくアイデア先行型だ。
ある日のこと、俺はミステリー小説を書こうとしていた。今となってはそれがどんなアイデアを発端としていたか思い出せないが、今回の話にそれは関係ない。
とにかく敵役を考えていた。
そいつは心の中にずかずか入り込んでくる嫌なやつという設定だった。他は何も決まっていなかったがそこだけは決まっていた。
で、なぜかその『心の中にずかずか入り込んでくる』という性格の表現に俺はこだわり始めた。他にもっと考えるべきことがあるだろうと当時の俺も自分にツッコミを入れていたが、とにかくこだわった。
心を見透かす――違うな。傷つける――ありきたり。痛めつける――違う。踏みつける――もう一声。切り刻む――いまいち。心の皮をめくる――うーん。裂く――凡庸。はがす――ちょっとなあ。脱がす――ん?
脱がす?
何を?
服に決まってるじゃん、と思った瞬間、それって実際に服が脱げたらおもしろいよね、と閃いた。そのアイデアで小説を書いたらと思うとわくわくした。
じゃあ、一人称にしろ三人称にしろ主人公視点が良いよね、ということで、その敵役は主人公へと配置換えになった。
なぜ俺はあのとき敵役の性格表現にこだわったのか?
今でもわからない。
しかし、そのおかげでミスチラはこうして誕生した。
いろいろ思うところはある。もっと主人公をスケベにしていたら、もっとコメディ色を強くしていたら、もっと扇情的な表現を多用していたら――
だが、悔いはない。
自分的には満足のいく作品に仕上がったと自負している。自分的には、というのはつまり、このアイデアだったらもっとウケ狙いのものができただろうに、読者のことを考えず自分が書きたいように書いたよねってことで、それは書き手として未熟なんじゃないかと反省があるわけです。