鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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名探偵コナツ 第51話  江戸川乱歩類別トリック集成(51)



 被害者は男子中学生、渡辺幹生。剣道場で倒れているところを宿直の教師が見つけた。その時にはすでに事切れていたため、教師は救急車ではなくパトカーを呼んだ。幹生はブリーフしか身につけていない姿だった。
 剣道部に部員はおらず廃部になっていた。剣道場は閉鎖されていたが、そこが犯行現場になってしまったわけだ。
 幹生の顔には複数の小さな打撲痕があり、前歯も何本か折れていた。顔ほどではないが、全身に小さな打撲痕があった。死因は窒息死だが首を絞められたり、水を顔に押しつけられた形跡はなかった。
 それなのに幹生の倒れていた床は水浸しだ。
「どういうわけなんだろうな?」
 神津刑事が不思議そうに言った。
「何かを喉に詰まらせて死んだってことなんだろうが、その何かは見つかってないんだ。きっと犯人が持ち去ったんだな。どうした? そんな恐い顔して。珍しい」
 そうかもしれない。
 私は殺人事件に慣れすぎていて、人が死んだり殺されたりしても憤るなんてことはほとんどなくなっていた。子供の頃は子供の頃で、人の死に関して無神経なところもあった。だが、たまにはこういう気持ちになることもある。
「犯人はあるものを被害者に向かって投げつけていた。打撲痕はそのせい」
「ああ、なるほど……でも、なんでそれで窒息死したんだ?」
「前歯が折れてたよね?」
「ああ……」
「普通、ものが飛んできたら顔を背けるから、いくら硬いものが飛んできたからって前歯が折れる可能性は低い。口も閉じてるしね。でも被害者はそれを正面から受け止める必要があった」
「どんな理由だ? 複数犯で一人が被害者を押さえつけてたってことはないか?」
「それもあるけど、目は無事だったでしょ? 押さえつけられていたら、それを投げてた犯人のコントロールがよほど良くない限りは当たってたと思う。そうなってなかったのは押さえつけられてなかったからだと考えられる」
「そうも考えられるか……、だが、目の時は避けて口の時は避けないっていうのはおかしくないか? 普通、顔全体を守るだろ?」
「たぶん、犯人はそれを口の中に入れるゲームでもやってたんじゃない? 例えば、一回でも口でそれをキャッチすることができたら許してやるとか被害者に言って。だから顔にそれが当たるのを覚悟してそれを迎え入れなくちゃならなかった。それが最初だったのか最後だったのか、被害者はそれを口の中でキャッチすることに成功した。でもそれを喉に詰まらせて窒息死した」
「……ひどいな。で、それって何だ?」
「氷よ」
「あ……」
「だから喉に詰まった後、解けてなくなった。口に入る程度の大きさ。きっと家庭用の製氷器で作ったものね。周囲の防犯カメラでクーラーボックスを持ってる人間を捕まえて。その中に入れた氷でやったと思うから。絶対に捕まえて」
 私は被害者の倒れていた床を見た。
 まだ水で濡れていた。
 死体発見から半日以上が経過していた。

 

  名探偵コナツ 第51話
 江戸川乱歩類別トリック集成(51)
 【第四】兇器と毒物に関するトリック
 (A)兇器のトリック
 (2)異様な弾丸